自己紹介文

黒猫亭とむざう

彼れは何時の頃になるのだらうか。母の温かい膝に抱かれて、初めて銀幕の中の美々しい世界に見入つた遠いあの日は。大人になつて識つた事、其れは俺が生まれた彼の日、遥か欧州の地では伯林といふ街の周囲に夥しい長さの有刺鉄線が張り巡らされ、夥しい数の地雷が敷設されたといふ事。その有刺鉄線も今は無く、地雷も粗方掘り返され、世界は大分様変わりしたやうだ。彼の日、彼の街を縛つた有刺鉄線は、今ではもつと細かく世界を分断し、彼の境界を越えやうと試みた人々を粉微塵に砕いた地雷は、世界の彼方此方に公平な贈り物として分配されたやうだ。今も変わつてゐないのは、今では無い何時かの彼の日に、温かい母の膝に抱かれて観た美しい世界の懐かしい記憶だけだ。