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2007年4月 9日 (月曜日)

One night in Belgique

こんな夢をみた。

今は夜である。そこは割合広いカウンターバーである。しかし、何故かカウンターの一方の端の側の壁がなく直に歩道に面している。つまり、広い車庫のようなつくりになっていて、地上と同一平面上にある。無国籍居酒屋とか屋台風を売りにするような点心料理店などにはこういうオープンスペースのつくりの店もあるが、カウンターの向こう側にはネオンパイプが走っていて、天井にはブラックライトがセットされており、内装としては小洒落たカウンターバーそのものである。

オレは誰か友達と一緒にそのカウンターの歩道に面した端の席に座っている。バーテンダーが「何になさいますか」と聞くので、何にしようかとちょっと考えたが、押し被せるように「マティーニでよろしいですか」と言われ、そういえば以前ここに誰かと来て一緒に酒を呑んだ記憶があるような気がした。

考えてみれば、バーテンダーが「マティーニで『よろしいですか』」と問うのもおかしな話で、初めて入った店だとすれば、オレが何を呑みたいかなどバーテンダーにわかるはずがない。多分、以前ここに来たことがあってオレがマティーニを注文したことを覚えているから「マティーニで『よろしいですか』」と言うのだろう。

そこで唐突にオレはここがベルギーであることを想い出す。具体的な地名ではなく漠然とベルギーなのであり、それはこの店がベルギーに在るという曖昧な認識でしかない。だが、日本から随分遠いところにある国だという感覚はあるし、そう度々来られるようなところではないという意識はある。そこで、そんなところに来たことがあるなら覚えているはずだと思って一生懸命記憶を総浚えすると、たしか二、三年前にある友人と一緒にこの店に来た記憶があるような気がした。

それを想い出してすっきりしたのだが、正直言ってオレはカクテルなど好きではないしマティーニなど一生のうちに数回しか呑んだことがない。そのときもマティーニなど注文したか何うかなど覚えていないが、多分そのとき一緒にいた友人が注文したのをオレだと勘違いしているのかと思った。

「いや、マティーニじゃなくて、何かお奨めの地ビールを一杯」と答えたのだが、相手が怪訝そうな顔をするので、やっぱり彼の記憶の中ではオレがマティーニを注文したことになっているのだろうかと思った。しかし、ビール党のオレがベルギーに来てまでカクテルを呑むとは思えないから、やっぱりオレじゃないという気がした。

そこで念の為に「前に来たときのことを覚えているのですか」と聞いたのだが、相手は「いえ、失礼ですがまったく覚えがありません」と答える。オレは腹の中で「ああやっぱりね、だってこれは夢だから」と思っている。しかし、そのときまで存在すら忘れていたのだが、隣に座っている友達が突然「いや、おまえはたしかにここに来たことがあるよ」などと言い出す。「そのときは、○○と一緒だったはずだ」と言うのだが、そいつと附き合いがあったのは学生時代の一時期だけである。

だとすれば、二、三年前というのはまったくの記憶違いで、二〇年以上前の話でなくてはならないだろう。目の前にいるバーテンダーはやっと三〇代半ばというところなのだから、そんな昔からこの店でシェーカーを振っているわけがない。ここに来たのが事実だとしても、そのとき一緒にいたのが○○であるのなら、このバーテンダーがそんなことを言うのはおかしいのだが、「どうせ夢だからしょうがない」と思って気持ちを落ち着けることにした。

多分さっきここがベルギーであることを想い出したからだろうが、隣にいる友達がどこからともなくレストランのメニューくらいある大きな明治チョコレートを取り出し包み紙をはがして半分に折り、「喰うか」とオレに半分差し出した。オレは「せっかくベルギーまで来たんだからチョコレートくらい喰わなくちゃな」と思って受け取ったチョコレートを囓ったのだが、ベルギーに来てまで国産の板チョコレートを喰うのは何だかおかしいとちょっと思った。

そう思ったら、ベルギーで当てつけがましく日本のチョコレートを喰っているのを地元の怖い人に視られたらただでは済まないのではないかという気がしてきた。オレの中ではベルギーというのはビールとチョコレートしかない国なので、その基幹産業とも言うべきチョコレートを侮辱されたら黙っていないだろうと怖ろしくなってきた。

こんな目立つところで明治チョコレートなど喰ってしまったのだから、誰かに視られたのではないかと思ってふと視線を上げると、バーテンダーが青い顔をしてこちらを視ていることに気附いた。彼はオレと目が合うと気まずそうに目を逸らし、「早くそれを隠してください」と気忙しげな小声で促した。慌ててチョコレートを隠したのだが、すでに誰か視られてはまずい人に視られているのではないかと思ってきょろきょろ辺りを見回したら、カウンターから見える歩道上の電柱の影の暗がりからこっちを視ている人相の悪い男がいることに気附いた。

あ、まずい、と思ったのだが、その男はオレと目が合うとつかつかと足早に近寄ってきて、いきなりポケットからナイフを取り出してオレに突き附けた。その男は「おまえはベルギーを侮辱するつもりなのか。どうしてベルギーのチョコレートを喰わずにニッポンのチョコレートなどを喰っているのか」と凄んだ。

勿論オレはベルギー人の識り合いなどいないから、ベルギーのやくざがどんな見掛けなのかは識らないが、多分この人相の悪いベルギー人はたちの良くない地元のやくざなのではないかと思った。「ああオレはベルギーくんだりまで来て明治チョコレートを喰ったというだけでベルギー人のやくざに刺されて死んでしまうのか」と思ったらたまらなく怖くなってきた。

そこでオレは「許してください、ベルギーを侮辱したことは謝ります」と平身低頭して命乞いをしたのだが、その男は「いや、オレが許してもボスが許さないだろう。だからベルギーにニッポンのチョコレートを持ち込んだ罰金を払え、そうしたらオレがボスに言って取りなしてやる」と言う。「愛国者面をしておいて結局はゆすりたかりかよ」と大いに白けたのだが、刺し殺されてはたまらないから「払います払います」と財布を取り出したのだが、金が足りるかなと心配したのが良くなかったのか、財布の中には一銭も残っていなかった。

夢の中で何か悪いほうに想像すると大概その通りになるから悪いことを考えてはいけないと反省したのだが、最早後の祭りで、ベルギー人のやくざは「金がないで済むとでも思っているのかおうおう」と嵩に懸かって凄んでくる。そこで今の今まで存在を忘れていた隣の友人が「こうしたらどうだろう。自分がこれから金策に出てきっと罰金を払うから、それまでこいつを人質にしていたらよかろう」と言い出した。

オレは助かったと思ったが、よく考えたらこいつがチョコレートなんか奨めるからオレがひどい目に遭っているわけで、オレが搦まれているのにこいつが他人事のような顔をしているのは理不尽である。そう思ったら猛然と腹が立ってきたのだがベルギー人のやくざもその提案に納得しているようなので、こいつを頼るしかない。

じゃあちょっと行ってくるからと言い残してそいつが店を出てしまうと、やくざはオレの隣に座ってオレの喉元にナイフを突き附けてじっと見張っている。夢の中だから単調なシーケンスには巻きが入って、少しの間に夜はとっぷりと暮れ、深夜になってしまった。ベルギー人のやくざがずっとオレにナイフを突き附けているので生きた心地もしなかったが、金策に出た友人が剰りに遅いので「あいつはもう逃げてしまって戻って来ないのではないか」という気になった。

そういうふうに考えるとそういうふうになってしまうから考えてはいけないと思いはするのだが、何うしても悪いほうに考えてしまう。そうこうするうちに、バーの前の歩道に猛然と小型のシトロエンが突っ込んできて中から友達が転がり出て来た。

オレは四輪車のことについては全然知識がないので、シトロエンと言ってもカリ城でクラリスが乗っていたやつしか識らないから当然その2CVとかいう車種である。何でもフランスに近い国だから、フランス車が一般的だろうと思い込んだものらしい。ともあれ歩道に乗り上げたクルマから血相変えて降りて来て「遅くなりましたが、何とかなりましたからそいつを放してやってください」と言いながら駆け寄ってきた友達をよく視たら、その友達は成海璃子だった。

友達の成海璃子は、お金を出すのかと思ったら妙に小さな版型の写真集を一冊取り出して、これで勘弁してくださいと言う。オレは内心「莫迦だなあ、写真集一冊なんて二千円くらいにしかならないから足りるはずがない」と思って、成海璃子にそう言った。

成海璃子は、ああそうですか、ではこれも附けますから、と言って写真集にDVDを附けた。やくざはそれで納得したのか「では勘弁してやるが、おまえの友人は大変可愛いのでオレのボスも気に入るだろう、罰金を払ってくれたお礼にボスがご一緒に食事したいと言っているから附き合うように」と言われた。オレはそれは困るしちょっと言い分がおかしいと思って「いや、今これからというわけにはいかないから、これこれの日時にこれこれの場所でお約束いたしましょう」と適当な出任せを言った。

やくざはそんな適当な出任せを素直に真に受けてくれたので、オレと成海璃子はこっそり店を出ようとしたのだが、何故か歩道に面しているほうではなく奥のほうから廊下を抜け裏口から出る形になった。しかし、裏口の扉を開けると、ブラックスーツを着てサングラスを掛け頭の禿げた二メートルくらいある巨漢の黒人がそこにいて、オレは多分この黒人がさっきのやくざが言っていたボスだろうと思ったので、成海璃子の顔を視られないように自分の身体の陰に隠してどきどきしながらすれ違った。

その黒人は狭い入口ですれ違うときに「パルドン」とか言ったので、案外礼儀正しくて好い人じゃないかと思ったのだが、怖いからちょっと頭を下げて通り過ぎようとした。そうしたら、突然その黒人が振り返って「ああ、もしかして君たちは」と言うので、慌ててオレたちは走って逃げた。

これからどうしようかと途方に暮れていると、成海璃子が「することがないからデートしよう」とかラブコメマンガのようなことを言い出すので、「それでは一旦オレの家に寄ってDVDでも視てからベルギー観光に出掛けよう」と答えた。だが成海璃子は「それだとわざわざ観光に出るのも億劫だから、泊まっていく」と願ってもない美味しいことを言い出した。

勿論、ベルギーにオレの家があるわけがないのだが、どうせ夢だからと思ってその辺は剰り考えないことにして二人で歩いて家に帰った。この場合、家というのは今オレが住んでいるところではなくて田舎の実家のことらしく、暫く歩いていると実家が見えてきて、玄関先に辿り着いた。女の子を自室に連れ込んでいるのを家人に視られたら煩瑣いことになると思い、中の様子を窺ってみると、座敷のほうに近所隣の人々が大勢来ていてみんなで賑やかに宴席を囲んでおり、親父がべろべろに酩酊して上機嫌で何か講釈しているのが見えた。

ああ、そう言えば秋祭りなんだな」と思ったところで目が覚めた。

目が覚めてから、オレって莫迦なんじゃないだろうかとちょっと思ったが、それよりもどうせ莫迦な夢をみるなら成海璃子じゃなくてもっと垢抜けた子が相手だったらよかったのに、と思ったが、夢に注文を附けられるくらいなら、そもそもこんなくだらない夢はみていないだろう。

一応念の為に言い添えておくが、オレはこの歳になるまで、ベルギーは疎か一度も海外に出たことはない。

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