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2007年10月27日 (土曜日)

姉妹坂

ウチには女猫が二頭いる。ブリーダーから譲ってもらったバーミーズと、その子の掛かり附けの動物病院で斡旋されたスコティッシュフォールドであるが、後者のほうはスコの母親とアメショの父親の間の自由交配で生まれたから、まあ一応アウトブリードの範疇で純血種のスコとは言えるが勿論血統書などは附いていない。

子供の頃に飼っていたのが焦げ茶と黒の錆猫だったので、どうせなら濃い毛色の猫が欲しいなと思って猫図鑑等を調べ、バーミーズに興味を持った。その頃は勤めが忙しかったので急病等に対応出来る自信がなく、その意味で保健所から引き取るのだと健康面の不安があるということもあり、キチンとしたブリーダーから譲ってもらうことにした。

二頭目を飼う余裕などはなかったのだが、病院の院長さんに強力にプッシュされた手前一度だけ会うことにしたのが運の尽きで、生後三カ月の耳折れスコの可愛さに負けてフラフラとその場で連れ帰ってしまったというのが真相である。上の子は物凄くスカしたツンとデレの落差が激しい生粋のツンデレで蛇のように執念深い陰湿な性格なので、猫というのはこういう生き物なのだろうと思っていたのだが、下の子はもっと素直でサッパリした愛想の良い性格だったのも新鮮だったということだろう。

正直「オレ、上の子に騙されてたんちゃうか」と思うくらい性格が違うので、最初は相性的には何うだろうと心配したのだが、何故か最悪の予想というのは当たるものらしくこの二人の相性は最悪であった。下の子からすれば三つも上の大人猫は母親のように感じるものだろうが、上の子には母性的な優しさなどカケラもなく、可愛い子猫が屈託なく懐いているのに大人げなく威嚇して苛める様は、視ていて背筋が寒くなるほど殺伐とした光景であった。

もっと好くないのは、下の子が素直でサッパリした気性だけに物凄く気が強い果敢な性格だったということで、数日間は姉の大人げないいじめにちょっと痍附いたような顔をして殊勝に耐えていたようだが、我が家を自身の住処と認識した頃には開き直って早々に反撃を加えるようになった。

これがもうかなり強気で、体重が倍くらいもある大人猫と喧嘩をして一歩も引けをとらない。そもそもアメショの血が入っているからか四肢が太く掌がでかくて体格が良かったのだが、連日この二頭は剰りにも五社英雄な掴み合いの大喧嘩を繰り広げ、挙げ句に上の子が瞼を怪我して雑菌が入り、物貰い様の腫れが右と左でピンポン感染を続けいつまで経っても完治しないという最悪の事態にまで発展した。

バーミーズというのはシャムの血が入っているせいか横から見ると眼球の大部分がかなり突出していて、目の怪我が多いものらしい。スコのほうは割合猫にしては金壺眼気味の彫りの深い造作なので、下の子のほうはまったくそんな心配はなかった。

生まれてこの方、怪我は疎か病気一つしたことのない飼い猫が半年近く痛い想いをしたのだから、この時ばかりはかなり凹んだ。知人に頼んで新井薬師の眼病快癒のお守りまで取り寄せたのだが、上の子のピンポン感染はしばらく続き、一時はエリザベスカラーを着けて不自由な生活を強いられるまでになった。重いエリザベスカラーのせいで動きと視野に制限が課せられ弱り切ったお姉ちゃんに、妹が背後から跳び蹴りを喰らわしたときはちょっと心が寒くなって河原で泣いた(笑)

消毒と化膿止めの二種類の目薬を差す必要があるのだが、人間でも目薬が怖い人が大勢いるのだし、爪を切るだけで怖がって大暴れする生き物なのだから、畜生が目薬を怖がらないはずがない。物貰いの不快感のみならず、投薬のストレスもあって、しばらくの間上の子は「ワタシは世界中で一番不幸な女…」と言わぬばかりに猫背の肩をがっくり落として悄然と過ごしていた。普段から小食なのが飯も喰わなくなったのでげっそりと窶れて鰻のように細長くなった。この子はこういうふうに、手前勝手な感傷を捨て身で表現する辺りが情がこわくて怖ろしいのである。

可哀想だが、筋合いから言ってこういう場面では先住猫を立てなければならない。一応の序列的秩序を確立する為には、どちらが家庭内で上位なのかを納得して貰わなければならない。筋合いから言えば、上の子はオレが求めて購った猫であり、下の子は他人から頼まれて引き取った猫であるから、この時点でどちらかを選べと言われたら上の子を選ばざるを得ない。上の子は何があろうとオレの手で最後まで面倒をみなければならないが、下の子は引き取って間もないうちならお返しするという選択肢も在り得るのだ。

そんなことが正しい行いであるはずはないが、所詮は手に余るのに引き取ったことが間違いなのだという結果論になってしまう。最初に間違ったことをしてしまったのだから正しくなくてもどちらかを選ばねばならないという厭な局面に追い込まれてしまう。

そうなってはみんな困るのだから、下の子には少し譲歩して貰わねばならない。理不尽に叱られるのは不憫だとは思ったが、怪我をしているのが上の子だという事情もあり、二人の間で諍いが起こった場合は常に下の子を叱るという対応をとった。そういうふうに対応することで、どうやらこの家では姉のほうが絶対的に優遇される立場なのだということを悟って欲しいと思ったのである。

元々物わかりの良い性格だったので、下の子は一朝事あらばいつも自分が責められる立場なのだということをすぐに理解してくれた。「我慢しなさい」「お姉ちゃんのほうが偉いんだから」と言われて、不満そうな顔はしていたが姉に搦まれてもちょっとだけ我慢するようになった。ちょっとだけ我慢さえしてくれれば、これだけ我慢している子を苛めるとは何事ぞと姉のほうも叱れるわけである。

我慢しない限り、上の子と下の子は対等の扱いだということになる。喧嘩を仕掛けるのは決まって姉のほうなのだから、常に姉を叱るという構図になってしまう。姉のほうが性格がねじれていて物わかりが悪いのだから、オレが求めて購った生き物であろうなかろうが悪いほうが罰されるのだということで辻褄だけは合っている。

そうなると、多分一年もすれば体格的に有利な下の子のほうが威張るという関係になるだろうが、それでは家内の階級構造として拙いのである。元々姉のほうはひがみっぽくて執念深い陰湿な性格なので、自分より妹のほうが威張っていたら日々鬱々と飼い主や血の繋がらない同胞を恨み続ける生涯を送るだろう。どうもそれでは飼い主として寝覚めが悪いので、一応形式上は姉のほうが偉いのだということを妹に骨身に沁みて納得して貰う必要があるのである。

何も悪いことをしていない、寧ろ被害者の立場にある妹を常に叱るというのは胸が痛んだが、なまじ気が強くて物わかりが良かったばかりに、つまり偶々良い子だったばかりに引いた貧乏籤だと思って諦めてもらうしかないだろう。人間の子供を育てた経験はないが、多分世の中の親というものは、こういうふうに子供に対して返しきれない負い目を負っていくものなのだろうと思った。

それでもまあ、オレは猫の躾けに要する時間を勝手に一年と年限を区切っている。猫というのは犬よりよっぽど莫迦なのだから、一年も躾けて身に着かないことは一〇〇年躾けても身に着くものではないと割り切っている。後は人間基準で不都合なことをするようならその都度叱るしかないことであって、躾けの為に特別な態度をとる必要はないということである。

上の子の場合、最初の猫だったので多少厳しく躾けすぎたという反省もあり、結局どんなに厳しく躾けてもねじくれた性根は治らなかったのだから、一年過ぎたらベタ甘の態度に切り替えた。躾けよりも、この猫個別のQOLを重視する姿勢に切り替えたということである。その伝で、妹のほうも特別扱いは一年間で切り上げた。普通に姉のほうが悪ければ姉を叱るということである。

姉の眼輪のピンポン感染も半年かそこらで落ち着いた。この経験で抗体が附いたのか何うかは識らないが、時々妹と掴み合いをして瞼が腫れることがあっても、暗いところで大人しくしていれば一両日中に治るようになった。

この二人は今でも相変わらず仲は悪いが、飼い主がいないと仲良く抱き合って寝ているようである。畜生にとって飼い主の関心を独占出来るか何うかは死活問題であるから、所詮は飼い主が間に入るから面倒事が起こるのである。

小さい頃は頗る附きの優等生だった妹は、なんだか段々姉と性格が似てきて根性が悪くなった。小さい頃は銀色だった毛色が、なんだか姉と似たような褐色がかかった曖昧なグレイに変化してきた。動物病院の院長は、大人になればもう少し明るい綺麗な毛色になると仲人口を利いたが、結果的にはその逆になった。上毛が暗くて下毛が白いという変な毛色になったので、後ろから視ると毛並の割れた筋が月夜に鱗雲が光っているような妙な見え方になる。

引き取った当初は星月夜のようで綺麗だと思ったので、「月夜(つくよ)」という名前を附けたのだが、本当は「つくえ」という名前にしようと思っていた。灰色で四本脚が附いているから「つくえ」である。茶色くても通用するシャレなので、実は上の子の名前の候補としても考えていた由緒正しいネーミングである。

猫好きの友人に相談したら「巫山戯るのもいい加減にしろ」と怒られたので、「え」を「よ」に替えて譲歩したのである。何でも喰っちゃう流石の中国人にも喰われないようにという願いを込めて考えた名前であるが、まあそんなことを心配するほうが頭がおかしいと言われれば一言もない。

この子は多分、その親切な人がいなかったら自分が変哲もない家具と同じ名前で呼ばれていたであろうことなど識る由もなく、名前を呼ばれると普通に何の疑問も感じていないように返事をする。

因みに上の子は動物病院の診察券では「摩耶」という小洒落た名前で通っているが、本当は「摩耶小」と書いて「まやぐゎー」と読む。沖縄語で「猫ちゃん」というほどの意味であるが、この名前を附けたときも同じ人に怒られた。「猫に『猫ちゃん』という名前を附ける莫迦が何処にいる」と言われたが「世の中には『キティちゃん』という重畳表現も罷り通っているのだから好いではないか」と押し切った。猫に「犬」と名附けるベタな臍曲がりよりもよっぽどマシではないかと思った。

黒猫亭の変なセンスで変な名前を附けられた二頭の女猫は、今日も元気に掴み合いの喧嘩をして、疲れたら飼い主の目を盗んで抱き合って眠っている。前述の通り、段々互いの厭なところを真似し合うようになって、性格が似てきてつまらなくなった。仲は悪いのだが、一応何とか一緒に生活出来るようにはなった。

水が低きに流れるように二頭ともグレてしまったことで、困る者がいるとすればそれは飼い主ばかりである。だからまあ、それはそれでもいいんだ、オレ一人が我慢すればそれで済む話なのだから(笑)。オレと彼女たちがこの先も健康で長生き出来れば、それ以上の幸福を望むつもりはない。

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コメント

月夜ちゃん=本妻=岩下志麻、摩耶ちゃん=二号=かたせ梨乃という配役が思い浮かびました(ちょっと怖い)。

上のお写真は本妻様の方でしょうか、いつも美猫(びじん)だなあと思っておりました。摩耶は摩耶夫人から来ているのかと思いきや、うちなーぐちとは。知りませんでした。

猫は目の保養になりますが、化けますよね。

投稿: 604 | 2007年11月 1日 (木曜日) 午後 03時10分

>604さん

どうもです。以前は自分のところの猫のことをネットで語って人目に曝したいとは思わなかったんですが、しばらくサボってる間に心境が変わりまして、たくさんの人にその存在を記憶しておいてもらうのもいいかなと思うようになりました。まあそれは別に、イマジンが過去で暴れても消えてしまわないように、というわけではありませんが(木亥火暴!!)。

>>月夜ちゃん=本妻=岩下志麻、摩耶ちゃん=二号=かたせ梨乃

摩耶と月夜をお間違えでなければ、逆ですね(笑)。まあ猫の気持ち的には、元々血が繋がってないですから姉妹というよりそっちの喩えのほうが近いのかも(笑)。摩耶の本妻意識というのはかなり強いですね、月夜に対してはいつも「後から来てでかい面すんじゃねえ」って顔に書いてありますから。以前飼い主の愛情を独占して好き勝手出来ていた頃のことを忘れられないんでしょう。

でも、岩下志麻は絶対摩耶ほどしつこくないんじゃないかと思うなぁ。猫の性格を一言で書けと言われたら、月夜については少し考えますが、摩耶については何の躊躇いもなく「しつこい」って書きますね(木亥火暴!!)。生まれた時に多分間違って「しつこい」から先に生まれたんじゃないかと思うくらいで(木亥火暴!!)。

この猫の最早怪談の域にまで達したゾッとするほどしつこい逸話はたくさんあるのですが、まあそのうちその気になったら追い追いに語りましょう(笑)。

投稿: 黒猫亭 | 2007年11月 1日 (木曜日) 午後 10時17分

ぎゃ、読み違え申し訳ございません。ちゃんと「上の子は……摩耶」とお書きになっていらっしゃいますのに。

小さな同居人さんたちへの愛情がうかがわれて微笑ましいです。よく「愛は尽きることがない」といいますが、注がれる方にすれば「愛は満ちることがない」のかもしれませんね(それで構って攻撃とか)。

「摩耶……おそろしい子!(白目)」
な怪談を読ませて頂くのをひそかに楽しみにしております。

投稿: 604 | 2007年11月 3日 (土曜日) 午後 05時08分

>604さん

いえいえ、スカしてわかりにくい書き方をしましたから名前を取り違えてもしょうがないです(笑)。オレのほうも肝心のご質問に答えてませんでしたが、トップの写真は摩耶がブリーダーさん宅から空輸で送られてきたのを受け取った日に記念に撮った写真を加工したものです。

ペーパードライバーのオレに替わって羽田までクルマを出してくれた友人のプロカメラマンが序でに撮ってくれたもので、デジカメとは言え流石に何となく構図になってます。カメラを向けられて大暴れしてるのを両手で抑え附けているので、凄いことになってますが(木亥火暴!!)。この猫を識っていると大体わかりますが、こういう上目遣いの時は大概怒っています(木亥火暴!!)。

仰る通り、美味しいご飯さえ宛っておけば満足な月夜と違って、摩耶は食い気のほうは薄いので「愛情」という形のないものを貪ること甚だしく、足ることを識らないですな。飯はある程度喰えば腹一杯になりますが、愛情は幾ら注がれても腹一杯にはなりませんから、逆に言えば際限なく求めることが出来ますね(笑)。

>>「摩耶……おそろしい子!(白目)」

百万回くらい白目にさせられましたねぇ(木亥火暴!!)。こいつがもし人語を語れるようになったら、絶対勝生真沙子の声で喋るに違いないと思います。まあ多分、人間の言葉を喋ったらよけい会話が通じなくなると思いますが(木亥火暴!!)。つくづく口の利けない猫で良かったと思います。

投稿: 黒猫亭 | 2007年11月 3日 (土曜日) 午後 05時42分

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