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2007年11月 3日 (土曜日)

猫の請け戻し

こんな夢をみた。

弟がオレの猫を勝手に連れて行って返さない。腹に据えかねたので土砂降りの雨の中を実家まで談判しに行った。オレの兄弟関係は、オレが長男で一つ下に次男がいて、九つ下に三男坊、そのすぐ下に妹がいる。年子が二組の関係だが、今に至るも独身でふらふらしているのはオレくらいで、後は夫々身を固めていて嫁や亭主がいる。

オレの猫を連れて行ったのは次男坊で、何ういう子細で連れて行ったのだかは覚えていないが、オレがあいつに呉れて遣った覚えもないので勝手に連れて行ったことは間違いない。この場合、猫というのは摩耶のほうで何故か月夜のことは問題になっていない。後で目が覚めてから、それに非道く気が差した。

兎に角、嫁もいれば毛むくじゃらでない人間の娘もいる次男坊が、オレの可愛い猫を勝手に連れ去って返さないのは重々けしからんと思って、土砂降りの雨の中をトボトボ歩いて実家まで弟を糺明しに行った。ホトホトと大粒の雨に傘を打たれながら寂しい夜道を歩いている途中で、はて、あいつは東京の大森だか何処だかでマンション住まいをしていたはずだがと不図思ったが、今実家にいることは間違いないので大した問題ではないと思い直した。

実家に着いたのは明け方近くの最も暗い頃で雨は一向に降り止まない。実家の前に来ると、母屋に棟続きの納屋の二階を改造して大きな窓の填った小綺麗な美容室を設えていて、そこに灯りが点っているのが見えた。実家は祖父の代まで農であったので、割合大きな納屋がある。従来は納屋を改造して母親がちっぽけな美容室をやっていたが、表から二階に回れるように階段を増設して、二階に移したのだろうと思った。

ところが、大きな窓から明るい室内を視てみると、弟とその嫁が立ち働いている姿が見えた。そう言えば、この弟が美容師の免状を持っていたことを想い出したが、そうすると、母親は自分の美容室を畳んで弟にやらせているのだろうか。オレは長男坊だが面倒事は嫌いなので、次男坊が母親の美容室を継いで実家をきりもりしてくれるのは有り難いと思ったが、それとこれとは別だから早く猫を返させようと思って階段を昇った。

入口の硝子戸から中を視ると、近所の小母さん連中が二、三人来ていて、何脚かある椅子の間を弟と嫁が忙しそうに行き来して働いている。髪の毛がたくさん落ちている床をオレの猫がうろうろしていて、オレを見附けるとぱっと硝子戸に駆け寄ってきて硝子をかりかり引っ掻いたのだが、中の人間たちはオレには一向に気附かない様子である。中に入ろうと取っ手を引いてみたが、内から鍵が掛かっているようで、扉が開かない。

中で店をやっているのに何故鍵が掛かっているのだろうと訝しく思ったが、忙しそうでもあることだし、仕様がないから一段落附くまで待とうと思って、猫には「後で話を附けるから待ってなさい」と声を掛け、頻りに硝子を引っ掻いて恋しがる猫の姿に後ろ髪を引かれながら階段を降りた。

納屋の一階にある便所で用を足していると、実家の前に東京無線のタクシーが着いて近所の小母ちゃんが降りて来た。オレが出て行くと「あら、○○ちゃん」と名前を呼ばれたから、弟の商売が何うなっているのかちょっと聞いてみた。何うやら弟は客商売に向いているようで、近所の評判も良く、嫁もよく働く出来た人らしい。娘もこの頃は歩けるくらいに育ったので、時折店のほうに出て来て可愛らしい片言で客に愛嬌を振りまいているらしい。

順調に暮らしているようで結構な話だが、そんならオレの猫など連れて行かなくてもよかりそうなものだと尚更腹が立った。これは一刻も早く話を附けて猫を返させなければならんと思い立って、再び階段を昇って入口の前に行った。ところが、ついさっきまでやっていた店は何故か真っ暗で、中にはそれこそ猫の子一匹いる気配はない。

オレが近所の小母さんと話し込んでいる間に寝てしまったのかと思い、つまらない気を遣ったばかりにタイミングを逃したと悔しがった。この儘空手で帰る気にもならなかったので、納屋の裏手に廻って、弟一家の住居に当たるほうの窓に、小さな礫を投げた。

一つぶつけたくらいでは誰も起きて来なかったので、何度もしつこく礫を投げた。そうすると、漸くぱっと灯りが点いて、窓に人影が差した。カラリと窓が開いて弟が顔を出し、「誰や」と大声で誰何した。「オレだ」と応えて窓灯りの差しているほうに顔を差し向けると、弟はオレであることを解したらしく、「何じゃ、われか、こんな大雨の夜更けに何の用があるんや」と不思議そうな顔をした。

その面附きが本当に何の心当たりもないようなのが無性に勘に障った。オレの大事な猫を連れ去っておきながら、オレが取り返しに来るとも思わなかったのかと思うと無闇に莫迦にされたような気がして腹が立った。怒りの剰り動悸が高ぶったが、その高ぶりを抑えて大きく一つ息を吸って、そこで目が覚めた。

だから、この後オレが弟に何と言ったのか結局わからず終いだし、その談判の結果猫が戻ったか何うかもわからぬ儘である。目が覚めた後も、猫の始末が何うなったのか見届けずに終えてしまったことが残念でたまらなかった。この夢の中のオレはちゃんと大事な猫を取り戻せたのだろうか、そうだと好いのだけれど、心配でたまらない。

床を立ってから、猫たちを台所に呼んで鮪の缶詰を与え、喰い終わった猫を代わる代わるしっかり両手で抱いた。猫たちはそんな飼い主を不思議そうに視ている。

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