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2009年7月10日 (金曜日)

タイミングよすぎ

何というか、このタイミングでこう謂う報道が為されること自体、作為的で気持ち悪さを感じてしまう。

海外の児童ポルノ・アドレス掲載、19歳私大生ら摘発

パッと検索した限りではどこのニュースサイトも共通の情報を掲載しているのだが、読売だけが以下の情報に言及していて、多分読売の意図とは逆だろうがこの部分はかなり重要な情報だろう。

県警は4月、ネット上の違法・有害情報の通報を受け付ける民間団体「インターネット・ホットラインセンター」(東京都港区)に協力を依頼。センターは、ネット上の住所に当たるドメイン名の登録業者と連絡を取るなどして、サイト運営者が米カリフォルニア州内にある会社と突き止めた。

四月の時点で証拠が挙がっているなら、その後何やかやの手続を踏んだとしても今まで逮捕出来なかったと謂うことはないわけで、「2人とも同法違反罪などで罰金50万円が確定している。」と謂う具合にどこの記事も過去形で表現していることから、逮捕から相当の時間が経っていることが推測される。七月に入ってから改正法案が審議入りしたタイミングで報道されると謂うのも思惑絡みとしか解釈出来ない。

この記述を視る限り、民間団体の私的な調査で特定可能な程度の対象で、会社組織が運営しているサイトと謂うことだから、米国の定義における「児童ポルノ」を掲載しているサイトなら、かなり荒っぽい捜査手法が可能なFBIによってとっくに摘発されているはずであるから、米国内では合法である可能性が高い。だとすれば、この報道で謂われている「児童ポルノ」が先日のエントリで説明した「三号ポルノ」である可能性は高いだろう。

その前提でちょっと考えてみると、アドレス掲載で児ポ法が適用可能だと謂うのはかなりギリギリな運用だと思うが、記事を読む限り画像交換目的の掲示板と謂う判断が為され、画像の頒布行為に準じると謂う解釈なのではないかと思う。以前説明した通り、問題ありやなしやを捨象して謂えば三号ポルノは国内の現行法では立派な「児童ポルノ」と定義されているのであるから、米国内では合法の児童エロチカであることを以てこの逮捕が不当だと謂う話には決してならない。

問題の掲示板が明白に画像の遣り取りを目的としたものであるなら、頒布行為に準じると謂う解釈にも一理ありこれも一概に不当逮捕だと謂うことにはならないだろう。しかし、これが法の運用解釈を広くとった逮捕であることも間違いないわけで、この逮捕自体に何か法学的に問題視すべき部分があるか否かについては門外漢にはコメント出来ないが、この種の法の運用において社会の理解や認識を超える運用解釈の拡大によって一般人が逮捕される可能性が高いことを示唆している。

これまでの感覚では、海外の画像サイトへのリンクが法律で明示されている「頒布」に当たると謂う認識自体が存在しなかったと思うのだが、結果的に頒布と近似の効果があるのだから頒布に準じる行為であり、それが逮捕を可能とする程度に違法性の高い行為だと解釈し得ると謂う認識なのだとすれば、考えてみると結構問題を含んだ運用解釈であると謂えるだろう。

また別の観点では、リンク先のサイトの画像が米国内で合法とされている児童エロチカに類するものであるなら、これは児童の人権保護と謂う観点の問題ではなく、法で頒布が禁止されている表現物の流通を取り締まると謂う観点の問題だと謂うことになる。これも考えてみればかなり問題含みで、前述の前提に基づくなら、この一件には人権保護の法的観点では一切問題がないにもかかわらず、国内の法秩序を更に厳格に徹底する目的で従来よりも運用解釈を広くとって逮捕に踏み切ったことになる。

現行の児ポ法が人権保護の観点に立脚した法律であるとするなら、人権上の問題が発生していないと視られるケースにおいて、従来よりも法の運用解釈を広くとってまで逮捕に踏み切ると謂うのは、筋論としては不可解なものである。ここにはすでに改正法案の精神が先取りされていると視るのも存外的外れではないだろうし、この逮捕の動機を推測するなら「割れ窓理論」的な考え方や「捜査の都合論」が背景にある可能性も高い。

つまり、法律の徹底と謂うことは、オレの理解では法の理念が目指す社会状況の実現に向けたものであるべきで、機械的なゼロ・トレランスの徹底ではないはずだが、この一件が示唆しているのは、すでに改正案が成立する以前に法の理念が改正案に沿う形で変容しているのではないかと謂うことである。

現行法の理念が実現を目指していたのは、自国の未成年者の性的虐待を抑止すると謂う状況だったはずだが、今回の逮捕は当たり前の意味ではそれとは無関係である。被写体が自国人でないと謂うことはもとより、米国内でも米国法の観点では人権被害は発生していないのであるから、国際的な人権保護と謂う原理的責任とも一切無関係である。

これを理念的に整合させるには、それこそ「割れ窓理論」でも持ってくる必要があるのだが、一番ストレートな解釈は、前回論じた「ペドファイルとの戦い」と謂うローカル要件とグローバル要件を曖昧に混同した薄気味の悪い予防主義思想である。

国際的な「児童ポルノ」を巡る状況の中では、三号ポルノと謂う概念が日本国内固有の文化的経緯に基づくローカル要件であることはすでに指摘したが、一般的に謂ってその固有の状況に基づく問題性は現行法の制定によって一応の終熄を視たと謂うのがオレの認識で、これ以上基準や適用範囲を厳格化するなら、原理的に謂って未成年者の芸能活動全般を禁欲的な性道徳の基準において規制すると謂う方向性に踏み込まざるを得ないだろう。

それこそ未成年のタレントの下着が見えそうなミニスカートはどうなんだとか水着グラビアはどうなんだとかジャニーズの上半身裸はまずいだろうと謂う方向に踏み込まざるを得ないが、これは国際的な水準を考慮しても行き過ぎである。

今回の一件は、「何故その方向性で厳格運用する必要があるのか」と謂うことを考えた場合に、どうにも不可解で気味の悪い部分があるのではないかと思う。

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コメント

今日の私のブログの中の<「児童ポルノ禁止法」改正について~ブログ「異端医師の独り言」より>で記したことですが、

国勢の動乱(?)<:首相の混迷(?)>のドサクサに紛れてどうやら、
国会で、野党民主党の(多少の修正があるらしいが…)賛成で、法案が通りそうだ。

国民を管理したい 官僚どもの暗躍によって、無能な国会議員の文盲をうまく操作して、ドサクサに紛れ、改悪法案が、どのくらい、通ったことか…!!

この件については、注意して、見守りたい!

と思います。

投稿: mohariza | 2009年7月11日 (土曜日) 午後 08時55分

>moharizaさん

>>国勢の動乱(?)<:首相の混迷(?)>のドサクサに紛れてどうやら、
>>国会で、野党民主党の(多少の修正があるらしいが…)賛成で、法案が通りそうだ。

一連のエントリで語っているように、オレは民主党案の評価ポイントとして、

・三号定義の削除
・適用範囲の限定
・単純所持罪の緩和

…の三点に注目しています。「児童ポルノ」からの呼称の変更や量刑の見直しは、まあ必要は必要な議論ですが、喫緊の重要性から謂えば枝葉のことかな、と。

法案レベルでここさえなんとかしてくれれば、運用の場面において法的に戦えると考えています。とくに「三号定義の削除」と「単純所持罪の回避」はマスト要件とも謂える核心部分で、このどちらかにでも妥協して与党案への対案提示がポーズにすぎなかったことが明らかになれば、総選挙では共産党が大躍進、みたいな筋書きにならないとも限らないと思います。

マンガやアニメ、ゲームへの適用範囲拡大は、或る種、法案レベルでは通ってもガチで徹底抗戦の腹を固めた法曹家が何人かいれば、違憲性の観点から十分に争えると考えますので、この場では譲っても構わないかもしれないと考えています。

逆に謂えば適用範囲の無思慮な拡大は、法令レベルですら許されない表現の自由の侵害だと考えていると謂うことですが、三号定義と単純所持の組み合わせの問題は、まさにこの個別の法令の核心を成す問題だと捉えているので、この時点で何とか決定附けておきたいと謂うことですね。

いずれにせよ、この問題の決着の仕方次第で、合従連衡で油断のならない民主党の使い勝手が判明しますね。

とりあえず、まとめを兼ねて近日中にもう一本関連の話題でエントリを上げます。

投稿: 黒猫亭 | 2009年7月11日 (土曜日) 午後 10時32分

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