遠足の日々
今回もしつこく「お達者倶楽部ネタ」である(笑)。
前回のエントリで報告した通り、最近はヒマさえあれば無闇にあちこち歩いて廻っているのだが、病膏肓に入ると謂うのか、休日には一日一〇キロ以上歩いている。何のことはない、脳梗塞からは立ち直ったが別の病気に罹ったようなものである。
前回のエントリを上げた翌日も仕事が休みだったので、前日に警察署への順路を調べた際にその近所に県南屈指の名刹があると謂うことを識って、かねて予定していた散髪のついでにさらに一足伸ばして拝観してくることにした。
勿論真面目な信心ごころから出た行いではないから、「拝観」と謂っても「見るものにして尊ばず」の類の冷やかし半分なものだが(笑)、境内には武蔵野の俤を残す広大な雑木林が鬱蒼と拡がっていて、梅雨時には珍しく強烈なカンカン照りだった当日には相応しいチョイスだった。
ただ、どうしてもこの時期は晴れた日に洗濯を済ませないと勿体ないので、午前中から二ラウンドくらい洗濯機を廻していると、何だ神田の明神下で自宅を出るのが一時過ぎになってしまう。それから馴染みの理髪店で予定通り散髪を済ませてから現地へ向かったので、結局到着時刻が三時半を廻ってしまった。
うっかり失念していたのだが、拝観時刻が四時までと謂うことで総門が閉まるまでほぼ三〇分弱くらいしか残されていない。三〇分雑木林の中を彷徨くだけで拝観料をとられるのも莫迦らしい、と少し迷ったのだが、受付のご婦人(…と謂う表現でほぼ年齢域を察して戴きたい(笑))が「四時二〇分過ぎくらいまでなら、出られるわよ」と言ってくれたのと、そもそもここまで一時間半も歩きづめに歩いておいて空手で帰る法はないだろう、と思ったので、結局ワンコイン也の拝観料を払って拝ませてもらうことにした。
天気が良かったので外で飯を喰うつもりで弁当を詰めて行ったのだが、意外と田舎と謂うのは緑地がその辺中至るところにある関係からか、都会のように無闇に公園がたくさんあるわけではなく、外で弁当を広げる場所を探すのに苦労する。
途中の何処かで飯を済ませようかと思っていたが、結局目的地まで飯を喰えずじまいでいたので、大河内松平氏の菩提寺である由緒正しい古刹の境内で弁当をしたためるのも不謹慎だとは思ったが(笑)、背に腹は替えられず、なるがたけ墓から遠い雑木林の中のベンチで弁当包みを広げて喰った。
オレは自分の詰めた弁当が大好きで、仕事のある日も弁当の時間が最も心和む至福の一時なのであるが、その日その時に自分が喰いたいと思う物を自分で選んで調理して詰めているのだからそれも当たり前の話である。
しかし、やはり弁当と謂うのは、せせこましい職場のデスクで喰うより天気の良い日に野天で喰うのが一番美味いことを再認識した。喰い終わったのはすでに四時を廻ろうと謂う素っ頓狂な時刻だったが(笑)、それまで散々身体を動かして汗の小一升もかいていたのだから、職場で喰うより三割方美味かった。
申し訳のない言い方だが、どうせオレなどは地附きの土地っ子なんかではなく通り縋りの腰掛け県民なのだから、何をしたどんな人物なんだか全然識らない旧川越藩主の菩提を弔おうてな殊勝な料簡なんぞはさらさらなく、ひたすら塩梅の良いところで弁当を喰うことしか念頭になかったと謂うのはここだけの話である(笑)。
まあ、不謹慎なのはオレだけではなくて、先に入場していた数人の中高年グループなどは、「立入禁止」の札があっても平気で入っていってあれやこれや見物しているような連中で、仏堂や本堂では誰も拝んではいなかったのだが、そもそも拝観するのにカネをとるようなメジャーな寺は、現役の宗教施設と謂うより一種の史跡としての観光施設なので真面目に拝む奴もいないだろう。
だいたい、神社ならともかく禅宗の寺に真宗の門徒がリハビリがてらの運動目的で浮気詣りと謂うのも初手から不真面目な話なので、最初の最初から青空の下で緑に囲まれて手弁当を喰いに行ったようなものである(笑)。
そう謂う次第で、弁当を携えて一時間なり二時間なり歩いて行って地元の史跡を見学してきたのであるから、これは定義の上からも立派な「遠足」である。
これが存外に楽しかったので、味を占めて日中に往復可能な範囲内で面白い「遠足」のネタはないかと考えたのだが、埼玉県なんてのは昔の史跡でもない限り河川敷のだだ広い運動公園とか畑地を潰して作ったテニスコートやグラウンドくらいしか近所にないのが通り相場である。
寺詣りも楽しかったが、そう何度も同じところに行くのも退屈なので、どうしたものだろうと考えたところ、灯台もと暗し、毎日通勤の際に橋を渡っている自宅近くの一級河川のネキに土手道が延々と続いていて、これがネットの地図で調べると何だか無闇にどこまでも上流方向に続いている。なので、この土手道が何処まで続いているのか最果てまで見届けてくるのも面白かろうと思い立った。
なんで「上流方向」かと謂えば、下流方向は東上線の高架橋が道の終端で、自宅から歩いても一五分で終わってしまうからである(笑)。この土手道の下流側は天気が良ければ通勤時に普通に歩いていて、線路が終端だと謂うことは駅の近くで終わっていると謂うことなので、今更歩いても楽しくも何ともない。しかし、橋の上流側の方向の土手道にはこれまで殆ど足を踏み入れたことがないので、それが何処までも続いているのであれば「遠足」にはもってこいである。
折しも土曜日は好い感じの上天気だったので、これなら何時間でも歩けるだろうと冷水筒に烏龍茶を詰めて出発した。寺詣りのときの経験で、出先でガッツリ弁当を喰うと運動量の割には体重が落ちないことがわかったので、今回は昼飯を喰ってから出ることにして弁当はナシである。何しろ今回は行程それ自体が目的なのだから、自宅から歩いてすぐが「目的地」なのだし、川っ縁を延々歩いてどこだか得体の知れない河原で弁当を喰っても行楽気分は出ないだろうと謂うこともあった。
また、これまでは正面きって「運動でござい」と謂うスポーティーなナリをするのもあんまりそのまんま過ぎて癪に障るので、飽くまで「散歩」の延長上と謂う体で普段と同じ服装で歩いていたのであるが、流石に三〇度を超える炎天下を延々歩くことになるのであるから、こう連日汗みずくになっていたのでは着衣が傷んでしまう。
ここは開き直ることにして、ナイキのジョギングシューズにコンバースのハーパン、ユニクロのシルキードライTシャツにテンガロンハット型の麦藁帽子、トドメにレイバンの度附きセル縁サングラスと謂う、何処からどう視ても「近所の勘違いしたお百姓さんのウォーキングルック」にビシッと身を固めて自宅を出た。
ちなみに、汗をかく時期には頭からタオルを被ってその上から帽子を被ると、毛細管現象でタオルを伝った汗が気化するときに頭部や首筋の熱を奪うので涼しくて動き易い。これはつまり昔の映画に出てくる南方戦線の旧日本軍の軍装と同工異曲であるから、そう謂うナリをして糞暑い中を歩きづめに歩いていると、どうしても脳裡を「バターン死の行進」と謂う不吉なフレーズがよぎってしまう。
この場合、「バターン」と謂う地名と「死の行進」と謂うフレーズとの連想で、フィリピンの常識外れの熱暑の中で「バターン、バターン」と音を立てて次々に人間が倒れていくベタなイメージが伴って甚だ不吉である。
まあ、橋から一キロくらいの間は日頃国道沿いのショッピングセンターに買い物に出たりするので見覚えのある風景だったが、そこを越えてどんどん歩いていくと、暫くは団地や住宅街が続いているのだが、そのうちどんどん寂れてきて風景が田園地帯…と謂うのも気取って聞こえるほどド田舎になってくる。
川沿いに見えるのは建築物ではなく土木工事の範疇の構造物が多くなってきて、それも暫くするとありふれた住宅街の風景に戻ってしまった。つまり、関東平野なんて田舎道をどんどん歩いていっても必ず隣接する市街地に出てしまうので、本格的に山奥にでも踏み込まない限り田舎の風景がそんなに続かないのである。
しかも、時折街側に忽然と出現するコンビニが何故かデイリーヤマザキしかないのもエキゾチズムたっぷりと申せませう。「そう謂えば所沢側に山崎製パンの埼玉第一工場があったなぁ」とか思ったのだが、あんまり関係ないだろう(笑)。単に、こんなうら寂れた川っ縁に何軒もコンビニが蝟集していていも意味はないし、単に偶々そんな僻地に出店したのがデイリーヤマザキだったと謂うだけだろう(笑)。
どうやら別の市区町村に出たらしいと思ってケータイのGPSで現在地を調べてみたところ、新座を経由して清瀬市のほうに抜けたらしい。ただ、清瀬と謂うのは古い団地以外には草木しかないところなので(笑)、川沿いの街側は建造物が増えてきても川縁の風景は埼玉県側よりも何だか雑木や雑草が乱雑に生い茂っていて見通しが悪く物寂しい。
折しも三〇度を超えるカンカン照りの休日と謂うことで、清瀬側に入った途端に流域上に点々と釣り人だの親子連れの水遊びだのが増えてきて、水着姿とかパンツ一丁とかあろうことかスッポンポンとかのアブナイ感じの幼女や少女がバチャバチャと盛大に水しぶきを上げながら無邪気に遊んでいる風景が増えてきた(笑)。
その傾向は、どうやら土手道の終端と表現しても無理のない清瀬金山緑地公園でピークに達して(笑)、公園側の河川敷でバラエティ番組仕込みのBBQの腕前を揮うお父さんだの、テントの中で大股を広げて昼寝をしているお母さんだの、水着姿で川の浅瀬を飛び回ってはしゃいでいるお子さまだのがワラワラ見えてきた。
勿論、一級河川が清瀬みたいな平らなところからいきなり生えて出ているわけではないので、これが川の終端でないことは当たり前だが、取り敢えずこの辺りまでで土手道は終わっていると視ても好いだろう。
公園の少し手前の辺りから、すでに「土手道」と謂うより「河原へ降りる為に一定間隔で設けられた階段と階段の間の草っ原に出来た轍」と表現するのが相応しいものになっていた。当然市街地側には道があるが、それはすでにクルマが普通に通っているような単なる舗装道路であって川の土手とは呼べないものである。
多分、さらに上流に上ればまた土手道が復活するのかもしれないが、とりあえず埼玉側から続く土手道はこの辺で一旦途切れて有耶無耶に消失していると解釈しても好さそうである。後で地図上で大略の距離を測ってみたら、出発点の橋からここまでが大凡六キロ前後であるから、思ったよりも大した距離ではなかった。人間の徒歩の速度が概ね時速四キロであるから、ここまでで一時間半である。
水着や半裸のお子さまがたくさん遊んでいるところで一服するのも胡乱なので(笑)、そこから少し引き返して開けた河原で三〇分ほど休憩を入れ、元来た道を引き返してこの日の「遠足」は終了である。ちなみに、休憩した河原でも水着姿の可愛らしい小学生女子が水遊びをしていたが、そのくらいは勘弁して戴きたい(笑)。そんなもん、誰だって人が降りられるような場所で遊ぶのが当たり前なんだから、ガキのいないところを探していたら気持ち良く休憩出来る場所なんて何処にもないだろう(笑)。
如何な特殊な嗜好を持つ中年男でも、水着姿の少女と同じ空気を吸ったと謂うだけで無碍に通報されることもないだろうと、のんびり川風に晒されて汗を乾かしながら持参した冷茶を呑み干して帰路に就いた。
帰宅して体重を量ってみたらさらに一キロ落ちていたので、もしかしたら来週半ばの診察までに目標を達成出来るかもしれない(笑)。まあ、数値上は体重が落ちた半面体脂肪率や内臓脂肪率が増えたことになっていたので、減った目方の大部分は水分だと謂うことだろうから、流石に三日四日でもう何キロも減らないとは思うが、身体を動かすことで動かしただけ目方が減ってくれるのは気分の良いものである。
前回のエントリに戴いたブコメでみつどんさんも仰っているが、人間、何心なく歩いていると、不図この儘どこどこまでも歩いていきたくなることがある。オレはこれまでの半生を徹底したインドア派で過ごしてきたから、そんな風情を覚えることなど滅多になかったのではあるが、北陸の小さな島(と謂っても裏日本で三番目に大きいのではあるが(笑))の生まれ育ちであるから、昔々の大昔、まだ子供だった時分には、子供の足でも半日も歩けば反対側の海に突き抜けてしまうような狭苦しい土地柄が大嫌いだった。
今でも、同じ田舎に住むなら本州の外れまで道が繋がっている埼玉や神奈川はまだ住めるが、千葉は三方のどんつきがすぐ海だから住みたいとは思わない。日本だって狭い島国だと謂えばその通りではあるが、少なくとも人間が半日やそこら懸命に歩いたくらいでは端から端に突き抜けたりはしないだろう。どんなに脚の達者な人間でも、徒歩の時速は四、五キロから大きく変わるものではない。
病気の療治と謂う不本意なきっかけではあるが、最近は何だか久々に「どれだけ歩いても海に突き抜けない程度の広さ」を体感出来て、割合楽しく過ごしている。
また、前回のエントリへのコメントで、うさぎ林檎さんから「とんでもない距離を自転車通勤する同僚」の話が出たが、やはり単純に謂って、昨日より今日、今日より明日、もっと遠くへ行ってみたい、と謂う気持ちは誰でもあるんではないかと思うし、徒歩では自ずからなる限界があるだろうが、自転車くらいだと空恐ろしい距離にエスカレートしてしまうのもわからないではない。
差し当たり次回のネタを探してみたところ、所沢航空公園辺りはどうだろうと見当を附けているのだが、これは流石に片道八キロ以上あるので、往復四時間くらい掛かる計算になり、さらに園内を一回りしてきたらたっぷり一日は潰れるだろうと思う。日曜は参院選の投票日でもあるし、土曜日の疲れも残っているだろうから、次の休日にでも廻そうかと考えている。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
おはようございます。
職質は受けませんでしたか?(笑)
所沢航空公園は良いところですよ。芝生が多くて目に優しいです。
お金を払えば零戦も見学できます。我が家もドッグランがあるので時々出かけます。
では、投票に行ってきまーーす。
投稿: うさぎ林檎 | 2010年7月11日 (日曜日) 午前 09時24分
>うさぎ林檎さん
>>職質は受けませんでしたか?(笑)
職質も何も、警察だって人手不足なんですから、そんな日頃人間が存在しないところを警察官が巡回しているわけがないではありませんか(笑)。3年B組の連中が通学している荒川の土手じゃないんですから、チャリンコに乗ったお巡りさんがしょっちゅうウロウロしていたりしません(笑)。
>>所沢航空公園は良いところですよ。
流石にちょっと遠いので、天気が良くて朝から出られる日があったら出掛けてみようかと思います。バイクに乗っていた頃に、外周を通ったことはあるんですが、中まで入ったことはないので、楽しみにしています。
>>お金を払えば零戦も見学できます。
展示館と大型映像館が別立で、共通割引でも八〇〇円だったりするんですが、ネット割引なら六五〇円なのでそっちを利用しようかと(笑)。でも、今調べてみたら映像館の番組は七月だと「プレヒストリックパーク」で有り難みがないんですよねぇ。
まあ、そっちでケチってもスーベニアショップで散々カネを遣ってしまいそうな予感がヒシヒシとしているのですが。
>>では、投票に行ってきまーーす。
オレもさっき済ませてきました。今回は過日の衆院選より悩んでしまいましたが、結果的には同内容の投票になってしまいました(笑)。
投稿: 黒猫亭 | 2010年7月11日 (日曜日) 午後 12時19分