面目玉と謂うもの
さて、今回はホメオパシー関係のエントリであるが、朝日の一連のホメオパシー関連記事で、日本学術会議がホメオパシーを全面否定する談話を出したと謂うニュースが出ていて、これはやっぱりpoohさんのところで知った。
ホメオパシーは「荒唐無稽」 学術会議が全面否定談話
この記事からのリンクで会長談話の全文(PDF)が読めるが、そこには
今のうちに医療・歯科医療・獣医療現場からこれを排除する努力が行われなければ「自然に近い安全で有効な治療」という誤解が広がり、欧米と同様の深刻な事態に陥ることが懸念されます。
…と謂うふうに、ハッキリ「ホメオパシーは医療現場から排除される必要がある」と明記されている。その提言に対して医療・歯科医療・獣医療の各団体から全面的に賛意を示す旨のステートメントが発表されているが、肝心の日本助産師会からのリアクションが未だにないらしい。
まあ、ハッキリ言ってここで下手を打ったら助産師業界の明日はない。この会長談話に正面から反論しているのは例の日本ホメオパシー医学協会くらいなので、日本助産師会が会長談話に対して批判的な姿勢を見せるなら、それは即ち日本助産師会が、たとえば会長談話に賛意を示した「日本医師会や日本歯科医師会、日本獣医師会など6団体」とは明らかに異質な性格の組織であり、日本ホメオパシー医学協会に窮めて性格の近い組織であることを証すことになる。
poohさんのところの「ホメオパシーと日本助産師会」と謂うエントリに書かれている日本助産師会の理事たちの姿勢を考えると、素直に「賛意を示します」と発表するのも業腹なんだろうな、とか想像したりするのだが(笑)、正味な話がこの問題に関しては学術会議が直接想定している「医療現場」ってのは、暗黙裏にはまず助産師業界が最初のトバ口なんじゃないの、と思うんだけどねぇ。
会長談話の段階で日本助産師会が自ら襟を正せないのであれば、次は「勧告」に行きますよ、くらいの勢いじゃないかと。その辺の詳細については、会長談話を巡る記者会見の記事が別立てになっている。
「ホメオパシー」についての日本学術会議会長談話の記者会見(1)
「ホメオパシー」についての日本学術会議会長談話の記者会見(2)
まあ、この記事で目立つのは「ホメオパシックジャーナル」記者氏の痛々しいまでに空気読めないアタマの悪さであるが、ちょっと最初のほうの部分を転載しよう。
司会 それでは、会長談話についてのご質問等があれば。まず、毎日新聞さんから。
記者1 談話、という形式をとられたというのはどういうことなんでしょうか。もっと強い調子のこともありうると思いますが…。
金沢 強い調子。たとえばですが、前の話ですが「あるある大辞典」で納豆食べるとやせるという話のときも、あのときも会長談話ですよ。けっこうやっているんですよ、会長談話というのは。
記者1 最近だと?
金沢 最近だと、食品安全委員会の委員が任命されない事態が起こったときとか。いわゆるリスク評価とリスク管理と、混同ではないかと。あのときは民主党に対して、言ったんだ。当時は野党でしたけどね。そういうのも談話でやっています。むかしと違うんですよね。むかしは勧告といって、もう61、62年たっているわけですが、最初は出すもののすべてが勧告。もう強烈だったんですよね。さきほど言いましたように、脳科学を推進しろ、とかそういうのは自分たちのためなんですよ。でも、そういうのはやめようと。全人類、国民のためにということで切り替わった。それ以後勧告は減りまして、大都市の災害に備えろとか、その程度になった。そういうなかで、ちょっとしたことを言おうではないかと、そういうときに会長談話というのが使われるようになったんですよね。
つまり、現在ではもう「勧告」と謂う強いニュアンスの意思表示の体裁は余程のことがない限り使われていないわけで、「脳科学を推進しろ、とかそういうのは自分たちのためなんですよ」と表現されているように、学術研究分野の利害を代表して「強い調子で要求を突き附ける」と謂うニュアンスが「勧告」だったわけである。
現在は科学者の専門家集団による公共の福祉への貢献として「ちょっとしたことを言おうではないか」と謂う程度の重みで「会長談話」くらいのニュアンスの影響力を行使しているわけである。上記引用中の「食品安全委員会の委員が任命されない事態が起こったとき」と謂うのは、たとえばがんさんのブログの「食品安全委員会の委員を否決した野党議員のレベルの低さ」と謂うエントリで言及されている事例のことで、エントリ中に金沢会長の談話の全文がリンクされている。
会長談話と謂うのはこう謂うニュアンスのもので、朝日の最初の記事中に「日本学術会議は、約84万人の科学者の代表として選ばれた210人の会員と、約2千人の連携会員からなる日本の「頭脳集団」。政府に対する政策提言や社会への啓発などを行う」と紹介されているが、科学者の専門家集団の代表者による公共の福祉への貢献を意図した「意志表明」は「ちょっとしたこと」とは謂え、決して無視して好いものではない。
たとえば今回の会長談話には「ホメオパシーは科学的に一〇〇%否定されている。それで十分である」「医療に携わる者はこれを医療現場から排除する使命がある」と謂う内容の意見を日本の科学者集団の総意として表明すると謂う重みがある。
前述の「ホメオパシックジャーナル」記者氏の滑稽さは、この辺の事情をまるで理解していないとしか思えない頓珍漢なポジショントークによって醸し出されている。
記者5 日本ホメオパシー医学協会の「ホメオパシックジャーナル」をやっています。あの、今回…
金沢 議論はしませんよ。
記者5 議論ではなく、調査というのは、どのぐらいホメオパシーについてされたのでしょうか。具体的に、調査が世界中のホメオパシーについて。これを見ると、あまり深く調査されていないような。
金沢 これ見てください。
記者5 あの、、、
唐木 科学の世界では、ホメオパシーは100%否定されています。それで十分だろうと思います。
記者5 調査はどのぐらいされたのかを教えていただきたい。
唐木 調査って、何をおっしゃっているのですか?
記者5 ホメオパシーに関する。
唐木 ホメオパシーの何ですか。ホメオパシーの有効性ですか。
記者5 有効性かどうかわかりませんが、実態がどのようになっているのかという点と、あとホメオパシーが現在問題になっているといいますが、問題になっていることが事実なのかどうか、事実になっているかわかっていないものをあげられていますけども。そのへんについてどのようにお考えになっているのでしょうか。
唐木 会長がさきほどご説明されたように、科学でないものを治療と称して使うことは、適切ではない。というのが、われわれの見解です。
(会見終了)
ここで記者氏が口にする「調査」と謂う言葉が痛々しいくらい滑稽で(笑)、その質問に対して「調査って、何をおっしゃっているのですか?」と答える唐木氏のせせら嗤うようなうんざりしたような表情が目に浮かぶくらいである。「これ見てください」と謂うのは、記事中にリンクがある記者会見で配布された資料のことだろう。
学術会議の意見とは、医療の専門家が「科学でないものを治療と称して使うことは、適切ではない」と謂うことに尽きるのであって、これに「ホメオパシーについて十分に理解した上で、自身のために使用することは個人の自由です」と註釈が附いているわけであるから、個人の愚行権にまで科学者集団は干渉しないと謂う意味である。
その直前にある金沢会長の言葉、
それは、反省すべき点がないとはいえない。西洋医学が、患者さんたちに、苦しい思いをしている方々に、どういうアプローチをしてきたかということは、確かに問題になるかもしれません。ただそのこととですね、いいですか、そのことと、科学的に否定されていることだっていいではないか、ということは別物です。ここはあなた方には区別してもらわなければならない。科学を無視してはいけない。そういうことです。あえてここには入れておりませんが、そのほかの替わりになるいろいろなものがありますよね。それをあえて入れていないのはですね、必ずしもみんな、科学的に否定されているものではないからです。これはちょっと余計なことを言ったかもしれないけれども、科学的に否定されたものを、信じさせてはいけません。そういうことです。
…これに尽きるのであって、従来の西洋医学に問題や限界があったことと、科学的に否定されている治療法を使ったって構わないじゃないか、と謂うことは全然別の事柄で、それは分けても医療の専門家だけは決して混同して好いことではない、医療の専門家が科学を無視したらオシマイだろう、そう謂う意味合いの科学者集団の代表者による提言である。
さらに何故今回特にホメオパシーが問題になったのかと謂うことにも説明があって、他の代替医療がすべて非科学的だなんて話はしていないけれど、ホメオパシーに限って謂えば科学的根拠が完全に否定されているからダメなんですよ、と謂う話である。
そして、学術会議が把握しているホメオパシーの「実態」とは、会長談話の最後のくだりに集約されていると見ることが出来るだろう。
ホメオパシーは現在もヨーロッパを始め多くの国に広がっています。これらの国ではホメオパシーが非科学的であることを知りつつ、多くの人が信じているために、直ちにこれを医療現場から排除し、あるいは医療保険の適用を解除することが困難な状況にあります。またホメオパシーを一旦排除した米国でも、自然回帰志向の中で再びこれを信じる人が増えているようです。
日本ではホメオパシーを信じる人はそれほど多くないのですが、今のうちに医療・歯科医療・獣医療現場からこれを排除する努力が行われなければ「自然に近い安全で有効な治療」という誤解が広がり、欧米と同様の深刻な事態に陥ることが懸念されます。そしてすべての関係者はホメオパシーのような非科学を排除して正しい科学を広める役割を果たさなくてはなりません。
最後にもう一度申しますが、ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。それを「効果がある」と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です。このことを多くの方にぜひご理解いただきたいと思います。
これはたとえばオレが以前のエントリで述べたように、ホメオパシーを巡る施術者と信奉者の集団が膨大化すれば、科学的根拠のない非科学的治療法に対して公共リソースを投じる必要が出てくるが、それはまったく無意味なコストであり、諸外国の実情は見習うべき先進事例とは見做されていない。
逆に、まだ本格的にホメオパシーが根付いていない今のうちにこそ、諸外国のような憂うべき事態に陥る前に水際で日本の医療現場からホメオパシーを排除する必要がある、それこそが医療従事者の使命だろう、と謂う認識である。日本ホメオパシー医学協会の意見は、これとまったく逆の認識に基づいているわけで、
ホメオパシーの治癒効果は世界中で広く認められている。きちんと調査することもなく、荒唐無稽と断定する極めて非科学的な態度にあきれている。世界的にも普及しており、日本学術会議の見解、認識は世界の情勢と著しく乖離(かいり)している
…と謂う大爆笑必至のコメントを寄せているそうな。
「調査」も何も、諸外国においては、科学的根拠が一〇〇%否定されている「お医者さんごっこ」に莫大な公共コストが投じられており、これを直ちに停止することは困難な状況にある、これだけで現状認識としては必要にして十分である。日本までそうなったらまずいでしょ、そんなもんに貴重なリソースを割かないでください、これが今回の会長談話の政策提言としての側面だろう。
つまり、現政権が考えているような、代替医療のハードルを下げて医療コストを何とかしようなんて魂胆でホメオパシーに保険適用なんて許したら、丸々公共リソースの無駄遣いですからやめてくださいと謂う暗黙裏の主張だろうと思う。
おそらく、日本学術会議は民主党政権をあんまり信用していない。それは前掲の食品安全委員会の件もあるだろうし、事業仕分けで事の是非はともかく「自分たちの利害」についてはマイナスに働いたと謂う事情もあるだろうし、さらには、代替医療なら漢方もホメオパシーも十把一絡げで許容しようとする大雑把で非科学的な姿勢に対しても警戒を強めているだろう。
今回の会長談話は、たしかに毎日新聞の記者氏が指摘するように「もっと強い調子のこともありうる」だろうけれど、おそらく科学者サイドからのアクションとしては相当満を持して慎重且つ周到に計算されたものだろうと思うし、十分に効果的な意思表示となり得ていると思う。
前述の通り、日本助産師会はこの件について未だ無反応のようだが、幾らガチでホメオパシーを信じられるような鈍感な連中の集まりだからと謂って、今現在その喉元に突き附けられているのは生死を隔てる利器の切っ先だってことくらい気附け。
日本中の医療・歯科医療・獣医療の専門家団体がすべてこの会長談話に賛意を示していると謂うことは、日本助産師会に独自見解を述べる権利なんかなく、厭だったら正規の医療技術者集団とは認められないと謂うことである。
文脈読めないヒトに搦まれても面倒なのでこの際ハッキリ説明しておくが、「誰が認めないのか」と謂う主語は、別にオレ個人が認めないわけでもないし、世間様が認めないわけでもないし、国が認めないわけでもない。つまり、医療技術者と謂うのは専門家の職能集団による相互保証によってその職能的権威と信頼性が成立しているのだから、そのような医療技術者の職能集団全体が主語になる。
であるから、日本助産師会がこの会長談話に対してだんまりを通して従前通りホメオパシーを用い続けるなら、少なくとも日本中の「お医者さん」と名の附く専門家は誰一人として助産師をマトモな医療技術者とは認めないと謂うことになる。これは、獣医療団体にまで関連する事柄なのであるから、人間を扱う医者だけではなく獣医師にまでそのような扱いを受けると謂うことである。
たとえばこれまで産婦人科と助産院で棲み分けが出来ていたとしても、マトモな「お医者さん」なら、「たとえ正常分娩だとしても可能な限り助産院に割り振ることはしないようにしよう」と謂うような形にシフトせざるを得なくなっていくだろう。
事此処に至ってこの件に関してシカトが通せると思ったら、大間違いである。
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コメント
そうですよね、やっぱりそう思いますよね。私も日本助産師会がここでどう対応するかで話が変わると思います。
ホメオパシーやその他の(胡散臭い)代替医療を利用し続けてホリスティックケアを、なんて念仏を唱えるようなら、職能の存在そのものを疑われかねない危機ですよ。
しかし日本の頭脳集団に向かって"非科学的な態度"と反論する愚かさには驚くというか呆れるというか、それしか出来ないんでしょうけど、色々むき出しになっちゃって痛々しいです。英国ウェールズにあるらしくてイタリアにあるムツゴロウ王国みたいな国が国際的に承認している大学の名誉ホメオパシー博士が率いる団体の発言はひと味もふた味も違います。
この件について長妻大臣はせっせと自分で自分の評価を下げていますね。ちょっと余所でも書いたんですけど
日本統合医療学会
http://www.imj.or.jp/index.html
日本代替・相補・伝統医療連合会議
http://www.imj.or.jp/jact/20071201.html
この当たりが現時点で厚労省に食い込んでいるのかが、今後に影響するんじゃないでしょうか。民主がこの手に脇が甘いからというのもあるでしょうが、私には役人が何やってんのか不透明なのが不安材料です。
政権変わっても、役所の中の人は変わりませんからねぇ。
投稿: うさぎ林檎 | 2010年8月26日 (木曜日) 午後 02時48分
>うさぎ林檎さん
>>そうですよね、やっぱりそう思いますよね。私も日本助産師会がここでどう対応するかで話が変わると思います。
本文で書いたように、今は助産師と謂う職域全体が相当ヤヴァい状況にあるとオレは思うんですけれど、それを日本助産師会の幹部連中は認識しているのかどうか、その辺が危ういですね。事は一部の幹部連中の去就のみの問題に留まらないわけで、該分野の職業者全体の利害を代表していると謂う自覚を持って事態に臨んで戴きたいものです。
医療業界の六団体の対応って、会長談話を転載して「賛意を示します」と謂うようなご町内の回覧板みたいな淡白な対応に過ぎないと謂えば過ぎないんですけれど(笑)、これはそれらの団体にしてみればそう謂う温度になるのは仕方のない話で、「マトモなお医者さん」はそもそもホメオパシーなんてハナから顰蹙していたわけで。
その一方で、日本助産師会が積極的に医療の現場にホメオパシーを普及させていると謂う沙汰の限りの実態があったわけで、そら「お医者さん」たちにしてみれば回覧板みたいな冷淡な対応になるのも当然ですし、「この機会に俺たちは判子突いたから、もう判子突かない連中の信用性については相互保証するつもりはないよ」と謂う最後通牒みたいな意味合いがあるわけですよね。
で、助産師と謂う職能者の専門的信頼性を担保する上位団体として日本助産師会があるわけですから、それが会長談話に賛意を示さないと謂うことになれば、個々の助産師たちの職能の信頼性を担保し得る上位組織が相互保証機構として機能しなくなるわけで、マトモな助産師の人々にとっては重々迷惑な話のはずなんですよね。
ここはやっぱり、poohさんのところのエントリにあった東京助産師会みたいな別のマシな組織が自浄機能を賭けて頑張るしかないんですかね。
>>しかし日本の頭脳集団に向かって"非科学的な態度"と反論する愚かさには驚くというか呆れるというか、それしか出来ないんでしょうけど、色々むき出しになっちゃって痛々しいです。
日本学術会議って、日本の科学者集団の持つ知的権威機能そのものなわけですよね。それに楯突いて「非科学的」と批判するのは、まあ批評の自由ではありますが、ではたとえば日本ホメオパシー医学協会が依拠する「科学」なんて「何処の世界の科学」なんだよって話になるわけで、日本学術会議が代表する八四万人もの科学者が識っている科学とは別物で日本ホメオパシー医学協会だけが知悉している「科学」ってのも社会の圧倒的多数の人々にとっては全然意味なんかないわけですが(笑)。
>>民主がこの手に脇が甘いからというのもあるでしょうが、私には役人が何やってんのか不透明なのが不安材料です。
長妻大臣も「ミスター年金」の頃には評価高かったんですが、すっかり株を下げちゃいましたねぇ。ひえたろうさんも「この期に及んで何を調査するんだ」とか突っ込んでいましたけど、「他の代替医療は識らんけど、ホメオパシーだけに限って謂えば科学的には一〇〇%否定されている」と科学者集団の代表者が自信満々で断言しているんですから、無意味なコストを使わないで戴きたいものです。
なんでそんなに代替医療に好意的なのかってところでいろいろ生臭い内部事情があるのであれば、それはもう政治腐敗そのものなわけで、民主党政権は科学の領域の事業について峻厳な仕分けが必要であると主張したばかりなんですから、自分たちの振る舞いの合理性についても同レベルの峻厳を貫いてほしいものです。
投稿: 黒猫亭 | 2010年8月26日 (木曜日) 午後 04時08分
助産師会からコメントが出ましたね。
http://www.midwife.sakura.ne.jp/midwife.or.jp/pdf/homoeopathy/homoeopathy220826.pdf
訣別宣言、と言えますかね。
これまで「自然」「安全」をキーワードに頻用されていたことが予想されるだけに、現場の一人一人の身の処し方には困難が予想されますけど、まあ、ギリギリ間に合ったって感じでしょうか。
日本薬理学会も賛同コメントを出し、日本薬剤師会は独自に「薬剤の適正使用」を進めるコメントを追加表明しました。
これで一応、包囲網は完成、かな。
しかし「荒唐無稽」とは、「科学者の傲慢」とか言うステレオタイプな非難を呼ぶのを百も承知で言い切った、と。あらゆる意味で「無意味」との評価を下したこの日本での事態は、世界のホメオパシー業界へのインパクトもでかいと思います。FDAとかEMA(欧州医薬品庁)にも影響は広がっていくかと。
さて。
「万能の有効性」を謳うレメディを失った助産師さんたちが「他のもの」を物色しないように、助産業務自体への監視と言うのは緩められてはならないだろうと思います。妊産婦と赤ちゃんの安全、安心を守るアプローチを、根底から見直していただきたいです。
投稿: shof | 2010年8月26日 (木曜日) 午後 08時38分
日本助産師会から2つ声明が出されました。
>ホメオパシーへの対応について
http://www.midwife.sakura.ne.jp/midwife.or.jp/pdf/homoeopathy/homoeopathy220826.pdf
学術会議の決定に全面的に賛同するとのことです。土俵際、俵で踏みとどまりましたでしょうか?
>科学的に否定されているものを助産師が使えば、本来受けるべき通常の
>医療から遠ざけてしまいかねません。
とありますから、助産師が安易に代替医療を用いる問題点を理解しているように見受けます。これからは周産期医療コメディカルスタッフとしての意識改革をどう図っていくかが、より問われると思います。
現代の助産師は、時には口減らしのための間引きの役も担っていた"(命を)取り上げ婆=産婆"ではない、のですからね。
でもねー、もう1つの声明を見ると若干不安です。
こっちは日テレのなんちゃって感動粗製濫造番組、24時間テレビ発の問題です。私は琴子ちゃんのお母さんのところで知ったのですが
http://d.hatena.ne.jp/jyosanin/
>日テレで8月恒例、24時間テレビが今年もあるそうですが、8人を自宅出
>産された方が扱われるそうです。それも、“毎回助産師を呼ばない”無
>介助分娩だそうです。
もう馬鹿丸出しの企画です。当然周産期医療問題にコミットしている界隈で大騒ぎになって、実際に具体的な抗議が行われたようです。結局、日本助産師会を含めて抗議殺到にテレビ側が放送内容の変更を余儀なくされたようです。
で、それに伴って日本助産師会が声明を出しました。
>警告! 助産師・医の立ち会わない無介分娩は危険です!
http://www.midwife.sakura.ne.jp/midwife.or.jp/pdf/caution_withoutmw220826.pdf
>助産師はその業務中で自然性を尊重し、安全な出産と母子の健康を支援
>しています。自然な分娩を大切にしながら、必要時はしかるべき医療受
>けられるようにすることも2つの命を守るため大切な責務だ考えます。
………うーーーーーん、この文脈で"自然"は余分でしょう?
ここが"安全"じゃないとこに私のフラグが立ってしまうのですヨ。まだまだ、要注意という感じです。
投稿: うさぎ林檎 | 2010年8月26日 (木曜日) 午後 08時39分
>shofさん
たった一両日の間に全然内容的に脈絡のないエントリを複数上げてしまったことを後悔しているところです(笑)。流石に気持ちの切替が追い着きません(笑)。
>>訣別宣言、と言えますかね。
流石に加藤会長名義で発信される情報はそんなにおかしいと思わないんですが、やっぱり先頃「隠密裡に」物故された珍しい名前のS助産師とか、安全対策委員のK助産師などがすべての元凶なんですかね…いや、つまんないネタを弄していてもしょうがないのでぶっちゃけますと、鴫原助産師と神谷助産師のことなんですが、うさぎ林檎さんが危惧しておられる文書については、「安全対策室 安全対策委員会」の名義ですから、安全対策委員である神谷助産師の影響があるってことですかね。
>>これまで「自然」「安全」をキーワードに頻用されていたことが予想されるだけに、現場の一人一人の身の処し方には困難が予想されますけど、まあ、ギリギリ間に合ったって感じでしょうか。
ギリギリですねぇ。他の医療団体のステートメントとの時差、そして他の医療団体のような冷淡で形式的な「回覧板に捺された判子」に留まらない文面など、非常に生々しい組織内の激論を想像させるところですね。そして、一応助産師業界全体の利害と謂う正論を背景に、辛くも良識的な意見が尖鋭な一派を抑えた、そんなところでしょう。
本当に危ない瀬戸際だったと思いますし、多分今現在もホメオパシーに親和的な理事やその影響下の助産師たちの不満は燻ぶっていると視るべきで、予断を許さない側面はあるでしょう。事態は特定職能組織内の政争的なニュアンスをも含む具体的なガバメントの如何に委ねられたと謂うわけです。
>>「万能の有効性」を謳うレメディを失った助産師さんたちが「他のもの」を物色しないように、助産業務自体への監視と言うのは緩められてはならないだろうと思います。
一種の盲点ではあったのだろうと思います。それこそ、助産師が受け持つのは疾患としての性格を持たない正常分娩のみですし、正常分娩なら女性の「自然な」生殖の営みとして同じ女性の経産婦である助産師の経験則の積み重ねで対処出来る部分も大きいだろう、助産師の手に負えない事態に至っても産婦人科に連携するに違いない…医療業界全体にそんな油断があったんだろうと思います。
>>助産師は女性に寄り添い、女性の思いを受容し、援助することが使命ですが、医療現場にあり、命を預かるものとしての責務もございます。私たち助産師の言葉や行動は、女性にとって大きな影響力を持っているということも自覚しております。科学的に否定されているものを助産師が使えば、本来受けるべき通常の医療から遠ざけてしまいかねません。しかるべきタイミングで医療を受けられるようにすることは、助産師の重要な役割です。
これは本当にその通りなのですね。医療技術者としての助産師の他に代替不能な部分と謂うのは、まさに同じ妊娠・出産を経験した女性として「女性に寄り添い、女性の思いを受容し、援助すること」であり、その一方で医療のプロフェッショナルとして「しかるべきタイミングで医療を受けられるようにすること」もまた重要な役割であると謂えるでしょう。
一方、どうもですね、助産師業界にホメオパシー「汚染」が拡がったのもこの辺の女性同士の秘やかな交流と謂う公の目の届かないデリケートなコミュニケーションの性格によるところが大きいのかな、と思わないでもないです。
「女性に寄り添い、女性の思いを受容し、援助すること」はやはり同じ女性にしか出来ないことですが、そこに妙な思想絡みの恣意が介在するなら、そして「しかるべきタイミングで医療を受けられるようにすること」の代わりに客観的な根拠のない似非の医療を接続してしまうなら、助産師には幾らでも妊産婦を思い通りに「洗脳」することが可能でしょうし、そこに男性が入り込む余地はありません。
個人的には、そう謂う女性同士の交流のデリケートな部分に附け込んだ巧妙な恣意の圧し附け…と謂うか「勝手な嘘を吹き込む行為」ってのは、男性が介入出来ないだけに許せないんですよね。
投稿: 黒猫亭 | 2010年8月26日 (木曜日) 午後 10時38分
>うさぎ林檎さん
>>学術会議の決定に全面的に賛同するとのことです。土俵際、俵で踏みとどまりましたでしょうか?
一応、日本助産師会の声明文を読む限り、文章読解の直観で謂えば一種真正な誠実さが伺えるように思いますから、絶望的な状況ではないと思います。論点も日本学術会議の提言を踏まえて問題点の在処を見失っていませんから、日本助産師会全体がどうしようもなく根っこから腐っているわけではない、そう謂うふうな印象を覚えましたが、shofさんへのコメントで触れた通り、
>>警告! 助産師・医の立ち会わない無介分娩は危険です!
この文書はおそらく神谷助産師の影響が色濃いのでしょうし、それはつまり、こう謂う状況に至っても別段組織内での立場が悪くなったわけでも処分されたわけでもないと謂うことなんでしょうから、まだまだ組織内のガバナンス上の課題は残っていますね。東京都助産師会での処分に期待したいところです。
>>ここが"安全"じゃないとこに私のフラグが立ってしまうのですヨ。まだまだ、要注意という感じです。
仰る通り、「自然な分娩」ってのは助産師業界視点の利害が突出した言い回しだな、と謂う印象を覚えますね。じゃあそれに対置される「不自然な分娩」って何だよ、みたいなツッコミがあり得ますし、それは多分産婦人科における通常医療に基づく出産のことだろう、と謂うふうにしか解釈出来ませんね。
これが「安全な分娩」と謂うのであれば、産婦人科だろうが助産院だろうが、それを隔てるのは病的な分娩か正常な分娩か、そんなところですから、それこそ平和な棲み分けが可能なんですが、「自然な分娩」とかポロッと言っちゃう辺り、まだ通常医療との対決姿勢を崩していませんか、みたいな感じですね。
投稿: 黒猫亭 | 2010年8月26日 (木曜日) 午後 10時40分
バイクの不調などでおたおたしているウチにすっかり出遅れてしまいました。
悔しいので一言だけ(笑)。日本ホメオパシー医学協会が学術会議にたてついている拠ってやっぱり「御用学者集団」が大企業と結びついて自分たちの利益を損なうホメオパシーを潰そうとしている、ということろでしょうか。
自分たちこそ、病に苦しむ人々を救う「善意の集団なのだ」とでも言いたいのでしょうね。
投稿: がん | 2010年8月28日 (土曜日) 午後 06時36分
>がんさん、初めまして(ですよね?年のせいか記憶力がイマイチ)
私は日本ホメオパシー医学協会、というか由井氏(とその取り巻き)は自分がやっている商売がなんなのか”わかってやっている”と買い被っていました。ですからやり過ぎないだろうと、どこかで楽観していました、金のなる木を手放すはずがないと、しかしそれは全くの見当違いでした。
彼女が講義をすると、参加者は最後には泣き出したりするそうです。彼女にある種のカリスマがあることは間違いないようです。
おそらく彼女が語る彼女の履歴は嘘で塗り固められています。しかし、周囲(高学歴の人達)が自分の思い通りになる事、どんどん収益が上がったこと(元手は只同然)で、自分が塀の上を歩いていることをいつしか忘れてしまったのでしょう。
それはやはりオウムのアノ人に似ていますね。
ですから、当然の帰結として自分達を善とし、敵対するものを陰謀とするしかないのだと思います。
投稿: うさぎ林檎 | 2010年8月29日 (日曜日) 午前 12時02分
>がんさん
>>日本ホメオパシー医学協会が学術会議にたてついている拠ってやっぱり「御用学者集団」が大企業と結びついて自分たちの利益を損なうホメオパシーを潰そうとしている、ということろでしょうか。
前にも言いましたけど、特定個人なり団体なりが世間様からご尤もな糾弾を受けた場合に自分を正当化しようと思ったら、残された手段は陰謀論しかないんですよね。自分は陥れられているんだ、ホントは悪くないのに濡れ衣で非難されているんだ、自分に都合の悪い事実は全部でっち上げなんだ…これほど都合の好い言い訳はないですね。
で、さらにその種の陰謀論の根拠となるのが、たしかうさぎ林檎さんが何処かで仰っていたことだと思いますが、大概「それによって得をする者がいるから」と謂う明後日の方向の理屈だったりするんですよねぇ。
投稿: 黒猫亭 | 2010年8月29日 (日曜日) 午後 01時29分
>うさぎ林檎さん
>>おそらく彼女が語る彼女の履歴は嘘で塗り固められています。しかし、周囲(高学歴の人達)が自分の思い通りになる事、どんどん収益が上がったこと(元手は只同然)で、自分が塀の上を歩いていることをいつしか忘れてしまったのでしょう。
結局、由井寅子とか謂う人物の存在意義そのものがホメオパシーですからねぇ。自分が攻撃されているとか陥れられていると謂う被害者意識自体は間違ってないですね、マトモに考えたらホメオパシーは排斥されざるを得ないんですから、そんな紛い物に存在意義を感じている主導者もまた排斥されるのが当然なんですから。
ホメオパシーと謂う日本ではまだ識られていない「鉱脈」にいち早く手を着けたからカリスマになれたとも謂えますけど、結局それってマトモな治療術としては空くじのスカを掴んだわけで、無意味でお気の毒な人生だけど、全盛期には好い目も見たんだからもういいでしょう、無駄な労力を費やしてご苦労さんって話でしかありません。
ホメオパシー自体が排除されるなら、この方も一蓮托生ってことになりますし、この方の人生の「お気の毒さ」加減よりも、この方が世間に垂れ流した害毒やそれによって公私両面の意味で好い思いをした不当さってのもあるわけで、客観的に収支を計算したらこの件を機に凋落しても自業自得と謂うものでしょう。
ただ、今回の会長談話で医療現場全体からホメオパシーが排除され、助産院の助産行為においてはハッキリ訣別を迫られているわけですが、それが一般人レベルの関心においてはどの程度識られているのか、かなり大きな信用失墜に繋がらない限り安心は出来ないと謂うのが本当のところですね。
投稿: 黒猫亭 | 2010年8月29日 (日曜日) 午後 01時31分