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2010年10月13日 (水曜日)

頼むから早く終わってくれ

オレのような極度の閉暗所恐怖症の人間としては、ここ数日盛り上がっているチリ落盤事故の救出作戦の報道ほど迷惑なものは他にない。もう、怖くて怖くて少しでもその件に触れそうなTV番組を観ることが出来ない。

勿論、そのような気の毒な事件があって、遭難者を助けようと懸命に動いている人々がいて、その結果何とか救助が可能になった、これは大変結構なことであって文句を言うつもりも腐すつもりもないが、そう謂うことをチラリと想像しただけでもパニックを起こして眠れなくなる人間もいると謂うことに少しは配慮してくれまいか。

もうね、「地下数百メートルの狭い空間に閉じ込められた数十名の人々」とか「救出まで早くても二カ月」とか耳にしただけで、もう怖くて怖くて軽い鬱状態に陥ったくらいである。救出カプセルの直径が五十数センチだとか聞くと、オレでも肩幅が五〇センチくらいあるんだから、物凄いデブだったらどうするんだろうとか、どんどん厭な方向に想像がドライブして始末に終えない。

オレだったら、もうそんな状態に陥ったら最初の二日くらいで首吊っちゃうね。二カ月間も地下数百メートルの暗くて暑い地下壕にギュウギュウ鮨詰め状態なんて、想像しただけでゾッとする。まあそれ以前に、そんな深くて暗いところに潜って働くような立場には、たとえ一億積まれても絶対ならないと思うので、最初からあり得ない想定ではあるのだが、そんなストレスに丸一日以上耐えられるとは思えない。

時々都心の深いところを走っている地下鉄に乗っていると、ひょんな拍子に「今もし大地震が来たらどうしよう」と、映画「地震列島」の地下鉄銀座線赤坂見附駅みたいな状況を想像してパニックに陥ってしまうので、何とかそう謂うことを考えないようにするのが大変なくらいである。

とにかく、このニュースが一刻も早く忘れ去られることを待つのみである。

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コメント

何を言うにも、「すべてがデブになる」みたいなアフォな莫迦話を読んで怖い夢に魘された人間の言うことであるから、まあ無視して問題ない程度の少数意見なんだろうけどな(笑)。

「ハムナプトラ」のラストで小悪党が人食いスカラベがウジャウジャいる真っ暗なピラミッドに閉じ込められるのも怖かったなぁ。冷戦期のソ連の話で、大人だと少し屈まないと入れない狭いロッカーみたいな小部屋に長時間閉じ込めると謂う拷問があったと謂う話を聞いたことがあるが、オレだったらもう三分くらいでアッサリ降参して何でも言うこと聞いちゃうな(笑)。

オウム真理教とか戸塚ヨットスクールとか、ああ謂う「狭いところに閉じ込める」系の折檻が結構たくさんあると謂うのは、やっぱりこう謂うのがダメな人が世間にはたくさんいると謂うことなのかもしれないが。

先日脳梗塞で入院したときも、精密検査で受けたMRIが物凄く怖くて一度も目を開けられなかったくらいだが、ウチの次男坊がMRIにかかったときは「我慢出来なくなったときに押すボタン」を三回も押したそうだから、これは家系的な遺伝なのかもしれない(笑)。

そう謂えば、昔は高いところが割合平気だったんだが、脳梗塞で倒れて以来、高いところに立つと眩暈がするようになった。どうも倒れて以来三半規管の機能が弱くなったらしくて視覚で補正して何とか平衡を保っているようなのだが、高いところに行くと視覚の補正が上手く働かなくなって眩暈がするようになったようである。

従来の閉暗所恐怖症に加えて高所恐怖症まで出るようになったら、世の中怖いものだらけでうっかり外も歩けないじゃないか(笑)。

投稿: 黒猫亭 | 2010年10月13日 (水曜日) 午後 10時52分

おはようございます。

パニック障害を持つ私には洒落になりません。なるべく脳内視覚化を避けています。

ところで、BBC放送では「愛人発覚」のジョニ・バリオスさん救出時に
「カゴが引き上げられるのを待ちながら大臣と談笑している女性は奥さんか?」
とか。バリオスさんの奥さんが抱きついて泣いているのに
「奥さんか愛人かどちらかはっきりしません。」
とか。
「バリオスさんにはこの先数週間で解決すべき難問が。」
とか謂ってたそうです(笑)。

投稿: うさぎ林檎 | 2010年10月14日 (木曜日) 午前 10時50分

>うさぎ林檎さん

>>パニック障害を持つ私には洒落になりません。なるべく脳内視覚化を避けています。

おお、お仲間ですね。閉暗所恐怖症ってのは高所恐怖症とかと違って、ただ狭くて暗い場所が怖いだけじゃなくて、物凄く切迫的な恐慌を覚えるんですよねぇ。

>>「愛人発覚」のジョニ・バリオスさん

全然報道を観ていなかったので識らなかったんですが、この人のことですね。

http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20101014-OYT1T00692.htm?from=navlp

>>閉じ込められている間に愛人ばれる、妻の姿なし
>>救出されスサナ・バレンスエラさんと抱き合うジョニ・バリオスさん=AP
>>
>>【コピアポ=佐々木良寿】チリの鉱山落盤事故で、やや複雑な思いを抱えて地上に上がってきたとみられるのが、21番目に救出されたジョニ・バリオスさん(50)。
>>
>>地上に引き上げられると、待っていたのは、愛人のスサナ・バレンスエラさん。妻のマルタ・サリナスさんの姿はなかった。妻は、夫が地下に埋まっている最中に愛人の存在を知った。地下にいるバリオスさんの「待っていてくれ」という頼みを拒み、地元紙に「夫が無事でうれしかったが、他の女にも声をかけていることがわかった。私にも世間体があるわ」とやや憤然と語っていた。
>>(2010年10月14日13時07分 読売新聞)

「世間体」ってのがいいですねぇ(笑)。

どんなことになっているのか、めざましテレビの録画を恐る恐る観てみたんですが、太めの愛人さんが手を拍って注意を惹くと、ちょっとビックリした顔で「おまえのほうかよ!」みたいなリアクションだったのが笑えますね(笑)。やっぱりこう謂うときは愛人じゃなくてカミさんのほうに迎えてほしいものなんですかね。

投稿: 黒猫亭 | 2010年10月14日 (木曜日) 午後 10時42分

ドラえもんのねぐらでは落ち着いて眠れそうにない恐怖症ですね。チリの事件、早く落ち着くと良いのですが・・・

私は恐怖症と謂うほどには閉暗所には恐怖を感じないのですが、想像して怖くなるシチュエーションがありまして、それは宇宙空間のような物質が殆ど無い場所に一人ぽつんと取り残されるようなものです。
広いけれど何もない、でも遠くには星が瞬いているのに、空気もないから声を出しても届かない・・・うー、想像しただけでも怖いです。
あ、世間体というのも同じように怖いモノですねぇ。

投稿: どらねこ | 2010年10月15日 (金曜日) 午前 07時49分

おはようございます。

私の場合、物理的だけでなく心理的な閉所もダメなので、一番酷い時は各駅停車でも乗り続けられませんでした。今も時々ニュースで電車のトラブルで何時間閉じ込められたなんてのは聞いただけで血の気が引くので、TVのスイッチ切ったりします(笑)。

そうなんですよ、愛人さんの方だったんですってね。奥さんはテレビ放送の救出も見ないそうで、現場に行かない選択もチリ大統領夫人が、奥さんの判断は賢明だと支持したそうですよ(笑)。
取りあえず(かどうかは知らないけど)愛人さんと抱き合っちゃった映像を全世界に晒してしまったバリオスさんは、これから大変でしょうねぇ。アレ見て教訓を感じた殿方も多いんじゃないんですか?
とか謂って、私には全くどうでもいいんですけど(大笑)。

投稿: うさぎ林檎 | 2010年10月15日 (金曜日) 午前 09時36分

おはようございます。

モグラみたいに、穴倉をはいずりまわっているうちに身動きできなくなってしまう夢を子供のころよく見ました。うー恐ろしい。つげ義春のマンガにもそんなシーンが有ったような気がします。
悪夢といえば、乗ったエレベーターが勝手に動き出すというのも怖いですね。10階ぐらいのビルのはずなのに延々と上昇し続けるんです。かごの外は見えないはずなのに、工事用のリフトみたいに分かるんです。そして、かごもだんだん狭くなってくる。
現実のエレベーターは全然怖くないのですが。
大人になってから悪夢って見なくなったなあ。

投稿: zorori | 2010年10月16日 (土曜日) 午前 07時09分

>どらねこさん

>>ドラえもんのねぐらでは落ち着いて眠れそうにない恐怖症ですね。

子供の頃は押し入れの中に布団敷いて寝ていた時期もあったんですけどねぇ。この恐怖症がいつから出たのか詳しい記憶はないんですが、子供の頃はそんなにひどくなくて、大人になってから悪化したように思います。

子供の頃で閉所恐怖症に類した記憶と謂うと、極小さい頃に親戚の子とベッドの下に隠れて遊んでいたとき、その子が後から入ってきたのでオレは壁際に圧し附けられて出られない位置になりまして、そのことに気附いたら突然怖くなって大泣きしたことがあったことくらいですかね。

子供時代繋がりで謂うと、子供の頃は怪獣ブームの真っ直中だったので怪獣の着ぐるみを着るのが夢だったんですが(笑)、当然一度も着る機会なく大人になりました。後で聞いてみると、怪獣の着ぐるみの中って「着る」と謂う感覚ではなく独力で出入り出来ない(背中のジッパーやベルクロの繋ぎ目は一人じゃ開けられないので)極狭い空間に閉じ込められたようなものですから、閉塞感と孤立感がひどく閉所恐怖の人間には耐えられない環境のようですね。閉所恐怖のひどいヒトは全身タイツでフード部分を被ることも出来ないようですから、まして着ぐるみなんてのは無理ですね。

こうして、子供時代の夢がまた一つ現実の前に無惨に破れてしまうのだなあ(笑)。

関係ないですが、ドラえもんが机の抽斗に入るところを見ると脊髄反射でシュヴァンクマイエルの「アリス」を想い出します(笑)。

>>想像して怖くなるシチュエーションがありまして、それは宇宙空間のような物質が殆ど無い場所に一人ぽつんと取り残されるようなものです。

何かこれも、閉所恐怖とは完全に極性が逆なんですが、ちょっとわかるような気がします。たしか、極端に広大な空間を怖がる恐怖症と謂うのを聞いたことがあるような記憶があるんですが、ちょっと調べた限りではわかりませんでした。

>>広いけれど何もない、でも遠くには星が瞬いているのに、空気もないから声を出しても届かない・・・うー、想像しただけでも怖いです。

宇宙空間って怖いですよねぇ。相対的に狭い太陽系の中だけで考えても、一番近いところにあるものが何千キロ何万キロの彼方で、自分の周囲には暗闇の中に真空と宇宙塵と宇宙線くらいしかないってのがとても怖いですね。そもそも地球の表面の極薄い世界しか識らない生き物が、こんな異常な空間に放り込まれて正気でいられるはずがないんですが、それでも数少ないながら宇宙飛行士なんて人々(割とあっちの世界に行っちゃう人も多いらしいですが(笑))が存在するわけで、人間てのはかなりストレスに強くて図太い生き物なんですねぇ。

他の生き物にとっては満員電車なんか相当ストレスが強くて、マウスを似たような環境に置いてやるとストレスであっと謂う間に胃潰瘍になるって話がありますから、そんなストレスに耐えられるのが当然と謂う前提がまずおかしくて、人間に数え切れないほどの恐怖症があるのは、そう謂う意味で謂えば当然なのかもしれません。いろんな対象や状況を怖がると謂うのは、一種生き物として普通の反応なのかもしれませんね。

投稿: 黒猫亭 | 2010年10月17日 (日曜日) 午前 05時24分

>うさぎ林檎さん

パニック障害を調べてみると「広場恐怖症」と謂うのが出てきますが、これはパニック発作が出た場合に回避や脱出が出来ない人混みや雑踏状況が怖いと謂う恐怖症で、広場と謂っても別にどらねこさんの宇宙空間のお話のように広いところが怖い恐怖症じゃないみたいですね(笑)。

>>私の場合、物理的だけでなく心理的な閉所もダメなので、一番酷い時は各駅停車でも乗り続けられませんでした。今も時々ニュースで電車のトラブルで何時間閉じ込められたなんてのは聞いただけで血の気が引くので、TVのスイッチ切ったりします(笑)。

電車のような容易に脱出出来ない場所で発作が起きたらどうしようと謂う強い不安があるのが広場恐怖症だそうですね。心理的な閉塞感に強い不安や恐怖を感じると謂う部分が閉所恐怖症と似ているのかもしれません。

調べてみると、閉所恐怖症と似たものとして狭所恐怖症と謂う恐怖症があるようなのですが、閉所恐怖症のほうは心理的な閉塞感に重点が掛かると謂うだけで、何処がどう違うんだかよくわかりませんでした。閉塞的な状況であれば空間の狭さに拘らないのが閉所恐怖症で、空間の狭さに重点が掛かるのが狭所恐怖症、と謂うくらいの違いなのかもしれません。

ウィキで典型的な症例を視ると、

>>症例A:足を動かすこともできない満員電車で、突然、駅でもないところで緊急停止した。前方列車での人身事故の影響であるが、その停車は長時間に及んだ。
>>
>>乗客の1人が体を締め付けられ一切身動きがとれない事態に只ならぬ恐怖となり、乱暴に人を掻き分けて車掌室のドアを叩き、脱出しようとした。のちに窓を叩き割ってでも、この場所から出たかったと証言。
>>
>>症例B:長距離高速バスの最後座席に乗車していた。乗車率が高く、補助席を開放して通路を全て塞いだ。出口までの通路が塞がれた為、患者の乗客は恐怖に陥り、バスを下車した。

こう謂うのが閉所恐怖症なんだそうです。オレは両方ともわかりますから、おそらく狭所恐怖症ではなくて閉所恐怖症なんだろうと思います。とくにBのバスの通路の話なんてのはよくわかります。たとえば居酒屋なんかで、狭い部屋にでかいテーブルが置いてあって通路が殆ど確保されていない状況だと、一番奥の席なんか絶対入れないですね。テーブルの上を歩いてでも逃げ出したくなります。

>>取りあえず(かどうかは知らないけど)愛人さんと抱き合っちゃった映像を全世界に晒してしまったバリオスさんは、これから大変でしょうねぇ。アレ見て教訓を感じた殿方も多いんじゃないんですか?

チリのヒトは普通にイメージする南米人よりも勤勉で義理堅いなんて話をしていましたけれど、その辺はさほどお堅くなくて普通の南米仕様なんですかね(笑)。まあ似たような勤勉で真面目なメンタリティとして視られる昔の日本人だって、愛人や二号さんを囲うのが当たり前だったわけですから、洋の東西も人種も問わずそんなもんなんでしょうとしか言い様がないですね(笑)。

ただ、三十数名の感動のセレモニーにコミカルなお景物を添える辺り、何と謂うか不謹慎な言い方ですが巷で指摘されている通り映像時代における娯楽コンテンツとして非の打ち所がない完成度ですね(笑)。たしか現地では事故が起こってまだ救出の目途も立っていない時点ですでに映画化の話があったんじゃなかったでしたっけ。

まあ、映画化されてもオレは絶対に観ませんけどね(笑)、公開前後のTVスポット攻勢がウザそうです。少し前に洞窟の中で怪物に追いかけ回されると謂う内容のホラー映画の「ディセント」って作品がありましたが、TVスポットや予告編を観ただけで魘されそうになりましたから。

投稿: 黒猫亭 | 2010年10月17日 (日曜日) 午前 05時26分

>zororiさん

>>モグラみたいに、穴倉をはいずりまわっているうちに身動きできなくなってしまう夢を子供のころよく見ました。うー恐ろしい。つげ義春のマンガにもそんなシーンが有ったような気がします。

これです。これが一番怖い。うさぎ林檎さんへのお返事で触れた「ディセント」って映画がまさにそう謂うシチュエーションなんですが、よくみる悪夢も、身体がやっと通る程度の穴をはいずっていくと行き止まりになっていると謂う状況で、やっぱり心理的な閉塞感が一番恐怖を感じるんですよね。

よく例に出す京極夏彦の「すべてがデブになる」って話も、狭い隧道を這いずって行くとその先に閉鎖空間があって、タイトルですでにお察しのこととは思いますが、まあいろいろあって出られなくなると謂う話でして(笑)、この、狭い通路が開いているけど通れないと謂う状況も閉塞感を強調して怖い。なので、チリの落盤事故でも、なまじ直径十数センチくらいの小さい穴が通っているってのが、逆に閉塞感を強調して怖かったですね。

脱出出来ない状況の醸し出す心理的な閉塞感の恐怖としては、たとえば刑務所なんかも怖いですね。スティーブン・キングの「ザ・スタンド」と謂う小説で、スーパーインフルエンザであっと謂う間に滅亡した世界で数少ない人々が生き残る経緯を描くくだりで、刑務所の独房で一人生き残った男が絶望的な飢餓感を覚える部分があるんですが、ねちっこい筆致でこれでもかと描かれる閉塞状況がとても怖かった覚えがあります。

>>悪夢といえば、乗ったエレベーターが勝手に動き出すというのも怖いですね。10階ぐらいのビルのはずなのに延々と上昇し続けるんです。かごの外は見えないはずなのに、工事用のリフトみたいに分かるんです。そして、かごもだんだん狭くなってくる。
現実のエレベーターは全然怖くないのですが。

日野日出志のマンガで、少年が乗り込んだエレベーターが実際の階数以上に延々下降して行き途中で不気味な人々が乗り込んできて、最終的に地獄に着いちゃうと謂うベタな話がありましたが、エレベーターが実際以上に下降する感じが怖いと謂うのは割合一般的にある「緩やかに落ちる」状況を怖がる感覚ですからわかるんですが、上昇するのが怖いと謂うのはやや珍しい部類でしょうか。

>>大人になってから悪夢って見なくなったなあ。

オレは逆に、子供の頃はそんなに怖い夢をみなかったんですが、大人になってから閉暗所恐怖の夢をよくみるようになりました。思うに、やっぱり心理的な閉塞感を覚える状況に対して恐怖が引き起こされるわけですから、逆に八方塞がりのような閉塞的な心理状態が続くと、その繋がりで閉所恐怖の夢をみるようです。

投稿: 黒猫亭 | 2010年10月17日 (日曜日) 午前 05時28分

最後に、「渋いお茶が一杯怖い」というオチなのかと思ってたんですが、なかなか深刻な問題でもあるようですね。

『まだらの恐怖』ではなく『まだらの卵』所収でしたよね、「地獄へのエレベーター」。私は小学校の時あれ読んで、2年くらいエレベーターに乗れませんでしたよ。おろろん。

投稿: ひえたろう | 2010年10月23日 (土曜日) 午前 02時46分

>ひえたろうさん

>>最後に、「渋いお茶が一杯怖い」というオチなのかと思ってたんですが、なかなか深刻な問題でもあるようですね。

あの噺は、前半の若い衆の莫迦話やおやっさんの法螺話も聴かせどころですが、人間てのは実際ありとあらゆるものに恐怖症がありますので、クモが怖いなんて普通の心理なのかと思ったら、クモ恐怖症=アラクノフォビアなんて立派な恐怖症扱いされていたりするんですね。B級モンスター映画のタイトルにもなりましたが。

「饅こわ」でポピュラーに挙げられる恐怖の対象としては、クモ、ヘビ、カエル、ナメクジ、アリ、デンデンムシ、ムカデ、ウマ、大体そんなところですかね。相手が生き物だと「怖い」と言われても「そんなものなのかも」と思ってしまうんですが、これが饅頭となると途端におかしい。

そう謂う意味で、発想のプロセスが割合わかりやすい噺で、「怖いもの尽くしの莫迦話がエスカレートしてナンセンスなものを怖がる奴が出てくる」と謂うのがまず第一段階で、そもそも若い衆の莫迦話の段階で挙げられる「怖い理由」がナンセンスなのですから、そこから一歩踏み込んで怖がる対象自体がナンセンスなものにエスカレートするわけですね。

そこで普通の人がまず怖がらないものを怖がると謂うアイディアを思い附くと、その流れで、他の若い衆が面白半分でその怖いものを持ってきて悪戯をすると謂うプロセスを思い附きますよね。そこでその「普通の人がまず怖がらないもの」の候補として「饅頭なんかどうだろうか」と思い附いてしまうと、「それが嘘だったら丸儲けだよね」と発想が膨らみます。

落語には、どうやって思い附いたんだかよくわからないような突拍子もない噺も多いですが、この噺に関しては発想のプロセスが窮めて自然に想定出来ますね。

それから、ひえたろうさんが挙げられたサゲの一言なんですが、演者によって「熱いお茶が怖い」とサゲる場合と、「濃い(渋い)お茶が怖い」とサゲる場合がありますが、個人的には、甘いものを散々喰った後の口直しなんだから「濃いお茶」なのが自然だろうと思うんですが、「熱いお茶」でサゲる人が結構多いのが不思議です。

たとえば米朝なんかも「熱いお茶」でサゲているんですが、ひょっとしたら酒呑みはあんまりその辺は気にしないものなのですかね(笑)。米朝と謂えば、オレは長いことこのサゲを「ここらで一杯、濃い(熱い)お茶が怖い」と謂う畳み掛けるようなリズムだと思っていたんですが、米朝の口演では「今度は、熱ぅいお茶が、怖い」と謂うゆっくりしたリズムだったのが、何だかとってももっちゃりしているように感じました。総じて米朝版は、何だかサゲの一言がいろんな意味で落ち着かないですね。

多分、「あっつぅ〜いおちゃ」と謂う言葉の響きのほうが「こいおちゃ」よりもシズル感があるように感じられると謂う理由なんでしょうけれど、饅頭や羊羹を喰った後には渋い日本茶が欲しくなるし、ドーナツを喰った後には濃いコーヒーが欲しくなりますから、散々シズル感たっぷりに饅頭を喰う仕方噺をされた後に「熱いお茶」とサゲられるとやっぱり引っ懸かりますね。寧ろ少しぬるめで渋いほうがいい。

>>『まだらの恐怖』ではなく『まだらの卵』所収でしたよね、「地獄へのエレベーター」。私は小学校の時あれ読んで、2年くらいエレベーターに乗れませんでしたよ。おろろん。

日野日出志のマンガは怖い物見たさで読んでしまうけど、あんなものを自分の部屋に置きたくないですから一冊も買ったことはなく、全部立ち読みで済ませました(笑)。読むとトラウマになりますよね、「毒虫小僧」とか「蔵六の奇病」とか皮膚感覚に訴えるグロさがあって、大人でも結構キツいんじゃないでしょうか。

そう謂う次第で、手許に書籍がないので全部うろ覚えなんですが(笑)、「地獄へのエレベーター」は、たしか最後に主人公の子供が乗り込んできた不気味な連中に殴る蹴るの袋叩きにされると謂う即物的な描写だったような記憶がありますね(笑)。何か殺風景な野っ原で気持ち悪い奴らに袋叩きにされるのが地獄だってのがとっても厭ですね。

投稿: 黒猫亭 | 2010年10月23日 (土曜日) 午前 11時06分

なるほど、そんなサゲの違いがあるというのは全然意識していませんでした。(^^; 確かにこの状況なら「濃い~お茶」の方が欲しいですよねえ。(^O^)
で、試しに今手許にある音源を聞き返してみたんですが、2代目小遊三、5代目志ん生、5代目小さん、7代目談志と3代目米朝の中で、意外にも「熱いお茶」は米朝のみ、「濃いお茶」は小遊三のみでした。志ん生、小さん、談志は単に「お茶」なんですね。いや、これは意外。ただ頭の中では完全に「渋いお茶」なので、誰かビッグネームがやってるのでしょうが。

仰るとおり「饅こわ」(いいのかこういう略称で)は「発想のプロセスが割合わかりやすい」話で、それはそのまんま、話としてのわかりやすさでもありますよね。
私も確かこの話に初めて触れたの小学校の頃に子供用の本を読んだんだと思うんですが、その時のテキストがおそらく「渋いお茶」だったんだろうなあ……。

日野日出志は私も完全にうろ覚えトークなんですが(^^;、私の記憶では袋叩きのシーンはなく、最後のエレベーターの扉が開いて地獄のシーンで「えええええ!」と驚いているコマの後は、エレベーター落下事故を告げる新聞記事だったような……。
ほんと、うろ覚えなのです。
是非また読んでみたい。(^O^)

投稿: ひえたろう | 2010年10月23日 (土曜日) 午後 03時33分

>ひえたろうさん

実は今、先日読了した二冊の落語本の感想を書こうとしてあれこれひねくり回しているうちに例の如く長引いておりまして、久しぶりに落語のアタマになっているところでしたので、よい折りにひえたろうさんにお越し戴きました(笑)。

>>なるほど、そんなサゲの違いがあるというのは全然意識していませんでした。

オレも実際の口演を聴くまでは、書籍から得た知識で「渋いお茶」だと思っていたんですが、意外と聴いた中では「渋い」とか「濃い」とか謂うのは少数派なんですね。

>>で、試しに今手許にある音源を聞き返してみたんですが、2代目小遊三、5代目志ん生、5代目小さん、7代目談志と3代目米朝の中で、意外にも「熱いお茶」は米朝のみ、「濃いお茶」は小遊三のみでした。志ん生、小さん、談志は単に「お茶」なんですね。

ウチにはそんなにないんですが、三代目桂米朝、桂七福、三遊亭好二郎、柳家喬太郎の四席で、その内「濃いお茶」とサゲているのは喬太郎だけで他は全員「熱いお茶」なんですね。米朝が「今度は、熱ぅいお茶が、怖い」、七福が「今度はあの、熱ぅいお茶が一杯怖い」、好二郎が「ここらあたりで熱いお茶が怖い」、喬太郎が「ここらで一杯、濃いお茶が怖い」、こんな感じです。

書籍で読んでイメージしていたサゲのフレーズに一番近いのは喬太郎で、一番遠いのが米朝だったので例に出しましたが、並べてみると「熱いお茶」派の三人でも言い回しのリズムやテンポが全員それぞれ違うので、「熱い」と謂う言葉のリズムだけの問題でもないようです。句読点の入れ方でなるべく表現してみましたが(笑)、聴いてみないとわからないですよね。

米朝が三つのフレーズに分けてゆっくり、七福が「あの」で一旦タメを設けてやんわり二つに分けてやわやわサゲる感じ、好二郎は噺の調子同様ノーブレスでスピーディに一気に言い切り、喬太郎はテンポよく二フレーズに分けて得意の巻き舌でリズミカルにスパッと言い切る感じで、一番切れ味好く終わっている印象ですね。

ひえたろうさんの挙げられた例では、談志は意外と小さんの芸統を受け継いでいるようですからまあ影響関係はあるとしても、志ん生は大酒飲みで饅頭なんか自分では絶対喰わなかったでしょうから、茶が熱かろうが渋かろうがどうでも好かっただけかもしれません(笑)。小遊三はよく識らないヒトなので、何でこのヒトだけ「濃いお茶」派なのかはわかりませんが(笑)。

>>日野日出志は私も完全にうろ覚えトークなんですが(^^;、私の記憶では袋叩きのシーンはなく、最後のエレベーターの扉が開いて地獄のシーンで「えええええ!」と驚いているコマの後は、エレベーター落下事故を告げる新聞記事だったような……。

新聞記事のコマは覚えているような気がするんですが、途中で乗り込んできた連中がエレベーターの扉が開いてからそこが地獄だと謂うことを説明するシーンがあったような気がするんですが、こちらもうろ覚えなので自信はありませんし、わざわざ日野日出志の本を買うのは厭なので(今でもアレを自分の部屋に置くのはイヤ(笑))、ひえたろうさんが確認してください(笑)。

http://www.comicpark.net/cm/comc/detail-bnew.asp?content_id=COMC_ASE00169_001

試し読みコーナーでうっかり「ウロコのない魚」を読んでしまって久々に気持ち悪くなりました(笑)。リンクを辿ったら、全部試し読みコーナーがあるんですね、オレはもうこれ以上読みませんが(笑)。

投稿: 黒猫亭 | 2010年10月23日 (土曜日) 午後 08時55分

>>ウチにはそんなにないんですが

言葉吝みをして意味が伝わりにくくなりましたが(笑)、ひえたろうさんが挙げられた口演の演者は、桂派、柳派、古今亭、立川流…まあ、ちょっと二代目小遊三では見劣りがしますが三遊派と、落語界の主立った流派の総帥格の噺家の口演ですから、或る程度当該の演目の全体的な傾向を視ることが出来るけれど、オレの手許にある音源は辛うじて演者の芸統がバラけているだけの中堅どころばかりなので、個々人の嗜好と謂う以上の意味がなさそうだと、そう謂う意味です。

投稿: 黒猫亭 | 2010年10月23日 (土曜日) 午後 09時16分

しかし比較的「合理性」を重んじる上方落語の米朝が「濃い」「渋い」ではなく「熱ぅいお茶」だというのは興味深いですね。

熱いお茶というのは寿司屋に出てくるようなお茶で、比較的粗末な、薄いお茶というイメージで、確かに甘い饅頭に「熱いお茶」はなじみませんが、あるいは濃い、渋いお茶は高価過ぎて……というのもちょっと穿ちすぎでしょうねえ。

「あいつらみんな酒飲みだから」説はなかなか説得力があります。(^O^)

日野日出志は、なんとか確認してみます。私も買いたくはありませんが。(^^;

投稿: ひえたろう | 2010年10月26日 (火曜日) 午後 02時13分

>ひえたろうさん

>>しかし比較的「合理性」を重んじる上方落語の米朝が「濃い」「渋い」ではなく「熱ぅいお茶」だというのは興味深いですね。

何故なのか、ちょっとわかんないですね。ただ、この間の事情を整理して謂うと、噺の構造や設定に合理性があるのは上方落語一般の性格で、米朝と謂う個別の噺家の方向性としては「出来るだけ元の形で」古い噺を演じるけれど、古い形では今の聴客に伝わらないと感じた場合には或る程度現代的な形に改めることもある、そう謂う関係ですね。

かなり古い噺でも、米朝はマクラで巧みに理解の難所と思われる部分について説明してしまいますから、古い噺については全般に「伝わっている通りに」語ることを第一に心懸けていると謂えると思います。ですから、この場合に考えられるのは「米朝が教わった噺のサゲが『熱いお茶』だったから」と謂う辺りかな、と思います。

>>熱いお茶というのは寿司屋に出てくるようなお茶で、比較的粗末な、薄いお茶というイメージで、確かに甘い饅頭に「熱いお茶」はなじみませんが、あるいは濃い、渋いお茶は高価過ぎて……というのもちょっと穿ちすぎでしょうねえ。

「熱い」の由来を原話に帰したところで問題の先送りに過ぎないんですが(笑)、仰る通り高価な茶は熱く仕立てませんよね。玉露なんて極ぬるく仕立てますし、普通の煎茶でもグラグラ煮立ったようなお湯ではいれません。概して美味いお茶は「熱ぅい」と謂うシズル感ではないはずなんですね。

熱いお茶を美味いと感じるシチュエーションとしては、食後の飯茶碗に湯気の立つ熱いほうじ茶を注いだり、脂っこいものを食べた後に薄くて熱い煎茶を啜るような場合ですから、寿司屋のお茶が「魚の漢字を書いた肉厚な湯飲み」に入っていて薄くて熱いのも魚の生臭さや脂っこさをサッパリさせる為じゃないかと思いますが、甘いものを食べた後のお茶の美味さってのはそれとはまた別なんですよね。

美味いお茶自体が渋味の後に仄かな甘さの余韻を持っていますが、茶菓子を食べて口の中が甘くなっているときに、極渋く仕立てたお茶を口に含むと、甘味と渋味が釣り合って口の中がスッキリする、そう謂う感覚ですよね。オレが紅茶をあんまり好まないせいかもしれませんが、極甘い洋菓子の後もエスプレッソや濃いコーヒーが合うように思いますので、甘味の後の飲み物にはやっぱり強い渋味や苦味が合うんだろうと思います。

熱いお茶でも渋いお茶でも、茶に含まれるフラボノイドが臭みや厭味を取り除いて口の中をサッパリさせる効果はありますが、寿司や中華料理のように脂っこくて臭みの強いものを食べる場合は熱いお茶でも、饅頭のような甘い菓子を食べる場合はぬるくて渋いお茶でなければならないわけですね。

で、この感覚は甘党でないとわからないですから、男尊女卑の口承芸能で創案者や演者や聴客に左党が圧倒的に多かった思われる落語文化では、食後のほうじ茶や寿司のアガリの感覚でしか茶の美味さが共有されていない、そう謂う理由で「熱ぅいお茶」と謂う本来的ではないシズル感を強調する演じ方が伝わっていると謂うことかもしれません。

つまり、リアリズムで謂えば「饅頭を喰った後の茶の美味さ」は「渋いお茶」でなければ成立しないのですが、「甘党の男なんて柔弱だ」と謂う旧弊な男尊女卑的感覚が演者にも聴客にも活きていた時代性において、しかも男性が圧倒的に多い聴客に対して「食後の茶の美味さ」を伝えようと思ったら、熱いお茶のシズル感でなければ伝わらなかったと謂うことなのかもしれません。

実際、この噺の「みっつぁん(米朝版)」と謂う男は人を小馬鹿にしたような高慢な人物で、若い衆の莫迦話を黙って聴いていて鼻先でせせら笑うような厭味な奴だと謂う設定になっていますし、多かれ少なかれどの演者でもこの人物の厭味な人柄を描写して、他の若い衆が身銭を切ってまで厭がらせに饅頭を放り込む動機に繋げていますが、そのような高慢な男が「饅頭が怖い」と謂うギャップがナンセンスなことはもとより、実際のところは饅頭が大好物の甘党だと謂うのも、元を辿れば「厭味で悪知恵の働く男らしくない奴」と謂う悪意を込めた描写だったのかもしれません。

>>「あいつらみんな酒飲みだから」説はなかなか説得力があります。(^O^)

落語において「酒が呑めない」と謂う描写は「堅物」か「惰弱」の記号で、「酒が呑めない甘党」となると「男らしくないメソついた奴」の記号として扱われているところがありますので、「質屋蔵」の番頭になると「酒が呑めない甘党」で「堅物で男らしくないメソついた臆病者」とすべての要素を満たしています(笑)。

つい最近になって、男性が甘いものを好むことに寛容な風潮になりましたが、昭和くらいまでの時代性では「甘味処に通う男」は間違いなく笑い物にされていたわけで、それでもかなりの割合で甘党の男性だっていたはずなんですが、極最近に至るまで謂われなきサベツに晒されて不自由な思いを託っていたわけですね(笑)。

少なくとも、寄席に通うような常連客は呑む打つ買うの「三ダラ煩悩」が三度の飯より大好きな荒っぽい職人階級の男性が多かったわけで、甘党を蔑む風潮が強かったんではないか、それこそみっつぁんのように甘党でもそれをカムアウトせずに内緒にしていた人間も多かったのではないかと考えると、「渋いお茶」とサゲても「渋茶なんぞ啜ったかてどこが美味いんや」みたいに通じない怖れがあった、と謂う推測はどうでしょう。

そもそもみっつぁんの饅頭好きの嗜好自体が、当時の大多数の男性の聴客としては共感の持てない種類の感覚だったと謂うふうに考えると、多分この噺は古い時代においては饅頭の美味さを感じさせる方向の演じ方ではなかっただろうと考えられますね。

ガツガツと饅頭を頬張る男の滑稽味を引いた視点で描写して「おやおや、あんな甘いものをあんなにたくさんいっぺんに」…と左党の男性客をげんなりさせて笑わせるのが昔風の演じ方だったのかもしれませんし、間違いなく「そのような方向性の演じ方もたくさん存在した」と謂う程度のことは謂えるはずですよね。

普通の男性なら「ちょっと遠慮しとく」と謂うような喰い物をガツガツ大量に喰うと謂う解釈の演じ方。殊に演者自身が大酒飲みだと、「男性客の大半は饅頭なんて見ただけで胸焼けがするものだ」と謂う認識でも不自然ではないと思います。

今では甘党の男性も大手を振って甘いものを食べられる世の中(昔より甘党の男性が増えたかどうかはわかりませんが)ですし、「男性でも甘いものを好む者は多い」と謂う世間的な共通理解が流布していますから、饅こわの饅頭と時そばの蕎麦の違いは事実上存在しませんが、時代を遡ると、落語の主要な客層から考えて、寒夜の夜鳴き蕎麦は滅法美味いものでも、大量の饅頭はちょっと「うげっ」とするもの、と謂う感じ方の違いがあったのかもしれません。

この想定で謂えば、そもそも甘いものなんて好んで食べない(と想定される)聴客に向かって「甘いものを大量に貪り喰う気持ちの悪い奴」を演じた後に、リアリズムで「甘いものを喰った後にサッパリするもの」として「渋いお茶」とサゲても伝わらない怖れがあったわけで、酒飲み一般が識っている「お茶のサッパリ感」は、飯や寿司を喰った後の高温のほうじ茶や煎茶の感覚しか共有されていなかったので、客の間で共有されているシズル表現として「熱いお茶」と謂う演じ方が伝わった、そう謂う推測ですね。

ですから、「饅頭こわい」に「熱いお茶」とサゲる形が残っているのは、落語の男尊女卑的な時代性の名残と謂えるのかもしれませんね。ただ、現在はもう男性だろうが女性だろうが酒飲みは酒飲みだし甘党は甘党で、見た目や性別でそれを判断することは出来ませんから、熱いとも渋いとも限定しない、もしくはリアリズムの渋いお茶で行ったほうが間違いがないだろう、少なくとも「熱いお茶」と謂う方向性は不審を招く、そう謂うふうに聴客の側の事情が変わった、と謂う言い方は出来ると思います。

米朝の「熱ぅいお茶」と謂う演じ方は、よく米朝が口にする「相変わらず古い噺」としての演じ方と謂えるかもしれませんね。

そう謂えば、先日読了した落語本によると、米朝に古典落語の稽古を附けて貰うとセリフや地語りの一言一句の改変を厳しく嫌うそうです。理由までは書いてありませんでしたが、古典落語で伝わっている文言の一言一句には時代の淘汰を経て残すに足るだけの多面的な合理的根拠があるわけで、ちょっとした思い附きでそれを改変するのは噺の歴史性を軽んじることだ、と謂うような考え方かもしれませんね。

まあ、米朝自身が大変プライドの高い人みたいですから、「わしに稽古を附けさせておきながら勝手に変えるとは何事じゃ」と不快に感じただけかもしれませんが(笑)、動画で稽古風景なんかを視ると、言い回しや所作の細かい部分に「こう謂う効果や理由がある」と謂うことを説明していますので、やっぱり稽古を受ける程度の立場の人間の見識で不用意に言い回しを換えても、ろくなことはないと謂う考え方だろうと思います。

>>日野日出志は、なんとか確認してみます。私も買いたくはありませんが。(^^;

日野日出志の本は「カネを払う価値がない」から買いたくないんではなくて、自分の身近にあんなキモチワルイ本を置いておくのがイヤだから買いたくないと謂う、特殊な事情がありますよねぇ(笑)。あんなグロテスクな作風のマンガ家が、昔は普通に少年マンガ誌に描いていたのかと思うと隔世の感があります(笑)。

投稿: 黒猫亭 | 2010年10月27日 (水曜日) 午後 01時40分

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