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2011年12月29日 (木曜日)

壊れたもの

短かったような長かったような奇妙な一年だったが、そろそろ二〇一一年も終わろうとしている。今年はネット活動の中心軸をTwitter に移してしまったので、このブログも二カ月以上放置したままだったが、例年通り年末の挨拶くらいはしておこうかと思う。

何と謂っても今年は三・一一の震災と原発事故が圧倒的に大きな事件だったが、個人的には昨年末くらいから仕事のほうが左前で、春先になれば何とか経済も動き出すだろうと期待していた矢先にこの未曾有の事態が起こり、社会経済の状況が一変してしまったので、まったく希望の見えない一年間であった。

正直言って、実生活上ではわざわざ振り返ってみたいほど嬉しい楽しい出来事など何一つなく、思い出したくもないくらいイヤなことしかなかった一年間だったので、そう謂う陰気な話をブログに書いても仕方がない。

まあ、そうは謂っても生まれ附いての暢気者であるから、Twitter でベラベラと油紙に火が点いたように能書きを垂れ流していると気持ちが切り替わるところはあるが、そこでもイヤなものや不愉快なものをたくさん見た。その一方で、自分一個の周囲では決して見られないような素晴らしいものもたくさん見た。多分、ネットのコミュニケーションは今の世の中に残された数少ない希望の一つだろうと思う。

そう謂えば、半月ほど前に「今年の漢字」が発表されたが、幾ら何でも「絆」はねーだろ、とツッコミを入れた向きも多かっただろう(笑)。調べてみたら、阪神淡路大震災の年が「震」で、九・一一の年が「戦」、新潟中越地震の年が「災」と謂う禍々しい一字が選ばれていたのに、あちこちで大切な人間関係が決裂して人々が分断された今年のこの状況下で「絆」なんてのはどう謂う嫌がらせなんだとしか思えない。

多分これは少なからぬ人々が口にした凡庸なネタだと思うが、オレが選ぶなら「壊」の一字が相応しいだろうと考える。万有一切はすべて呆気ないほど簡単に壊れ去ってしまうものであって、壊れないように護り抜くことはその何倍も難しいし、壊れ去ったものをまた一から作り直すことはもっともっと難しい。

今年は数え切れないくらいたくさんの価値あるものが、目の前で簡単に壊れてゆくさまをうんざりするほど見せられてきた。人の命も、人の住む街も、人の生活も、幸福も、豊かさも、愛情も、友情も、信頼も、尊敬も、心の絆も、人々が価値を認め、それを作り出す為に懸命に努力して積み重ねてきた一切のものが、気まぐれに少しばかり大地が身震いしたくらいで、哀しいくらい呆気なく壊れてしまった。

絆の大切さを謳うくらいなら、壊れ去った絆の痛ましさを謳うほうが、余程この年に相応しい。絆が大切だなんてお題目には学ぶべきところは何もないが、壊れてしまったものは二度と戻らないのだし、だからこそ壊さないように護らなければならないのだし、壊れてしまったものは一から積み上げて新たに作り直さなければならない、それだけはしっかりと学んで胸に刻み附けておこうと思う。

そんなところで、少し早いが年内の更新は終わり。

皆さんに良い年が訪れますように。

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コメント

今年もお世話になりました。

びっくりするほど多くのものが失われて。それを取り戻そう、と云う思いが周りじゅうでさまざまな方向にむけて噴出されていて、なんだか狂躁的な年だったように感じています。それと同時に、取り繕ったものはすぐに剥がれていくんだろうな、と云う予想が順次現実化していくのを見る1年でもありました。

それでも逆に、こう云う状況でもなければ起きないような素敵なこと、感じられないようなうれしさ、みたいなものに触れることのできる1年でもまたあって。
絆、と云うことばはぴんと来ませんが、それでも「つながっている」ことを実感する、させてもらえることのありがたさ、と云うのは痛感させてもらえた今年ではありました。

来年もよろしくお願いいたします。

投稿: pooh | 2011年12月31日 (土曜日) 午前 12時44分

>poohさん

こちらこそ、ブログをほったらかしにしているのにいつもお世話になっています。

>>それと同時に、取り繕ったものはすぐに剥がれていくんだろうな、と云う予想が順次現実化していくのを見る1年でもありました。

震災直後の買い占め騒動の辺りから、「極限状況におけるエゴの噴出」と謂う小説やマンガでお馴染みのシチュエーションが、これからしばらく続くのかな、と思っていましたが、震災自体の記憶については原発事故の陰に隠れて速やかに風化してしまったような印象で、多くの人々が放射能の恐怖しか語らなくなってしまったことが、いちばんわかりやすい「エゴの噴出」だったように思います。

震災の被害は特定当事者だけの問題だが、想像上の放射能の恐怖は被災地域のみに留まらず怖がる人々すべてが直接当事者になり得るわけですから、他人が蒙った想像を絶するような苦痛や悲哀に惻隠する感情よりも、自分が囚われている恐怖の感情で頭が一杯と謂うのは、謂ってみれば極自然な人間の本然ではあるのですが、それを目の当たりにするとやはりかなり気が滅入るものがありました。

放射能の恐怖を極端に危険寄りに考える人々にとっては、震災の直接的な被災地域が丸ごと原発事故によって穢れた「不浄の地」と重なって見えるらしく、被災地を応援するどころか、自身の生きる世界から切断して切り捨てようとする大きな声でネットが震撼した一年間でもありました。これが人間の呪術性の最大の負の側面であり、行き着く先は理不尽な差別でしかないことはTwitterでも散々強調してきました。

まあ、震災直後は人心の動揺や世情の混乱と謂う大状況もあって、本当に恐慌を来していた人々が圧倒的に多かったのだと思いますが、震災後半年を経た辺りからパニックも収束して、大半の人々は常識的な感覚を取り戻したように思います。今ネットで大きな声を張り上げて極端なことを言い募っているのは、極一部のノイジーマイノリティではあると思います。要するに、平時でもネタがあればでかい声で変なことを布令て回るような人々だけが今でも騒いでいると謂う状況なのでしょうね。

すでに多くのものを喪ってしまった被災地の人々から見れば、東京以西の人々の放射能パニックは「これから何かを喪うかもしれないと謂う恐怖」に過ぎないわけで、しかもそれはまったく実体のない妄想上の恐怖にしか過ぎないわけですから、我が身可愛さのあまりのスラップスティックにしか見えないでしょうね。

>>絆、と云うことばはぴんと来ませんが、それでも「つながっている」ことを実感する、させてもらえることのありがたさ、と云うのは痛感させてもらえた今年ではありました。

仰る通り、社会や他の人々と「つながっている」ことは、数少ない救いのようなものだと思います。よく謂われることですが、阪神淡路と今回の震災のいちばんの違いはネットワークの発達で、巨大災害で個々の人間が分断されてしまうことによる孤立感のレベルが圧倒的に違っていたことが救いだったんじゃないかと思います。

こんな状況で、たとえば大手マスメディアしか情報収集手段がなかったとしたら、今頃どうなっていたのかと考えるとゾッとするところがあります。ネットによってデマの拡散が促進されたと謂う意見もありますが、オレはそれはまったく逆で、デマの拡散速度はネットがあろうがなかろうがそんなに変わらないけれど、デマを収束させる修正情報の伝播速度はネットの有無で格段に違ったと思います。

一種、公共の言論圏と常にアクセス可能であると謂うことは、見捨てられ感や孤立感のもたらす絶望を回避して冷静な判断を可能にするところがあると思います。勿論、ネットを覗けば声の大きな人々の醜悪な悪口雑言を目にする機会も増えますが、それ以上にマトモな言葉を聞く機会も増えます。

オレはTwitter を始めてから程なくして震災が起こったので、ブログよりも遙かに広く普及したネットメディアの負の側面が強く印象に残ったことは事実ですが、今では割合に捨てたものではないと思っています。

ブログの世界のように、ある程度纏まった意見の持ち主の声しか読まれないような抽出性の高いメディアよりも、無名人や普通の人々の意見に触れる機会が多くて、特別な意見を持っていない人々も意見表明出来るようになったことで、サイレントマジョリティの動態が見えやすくなったところはあるように思います。そうして見えてきた世の中の在り方は満更棄てたものでもない。

なんだか東浩紀みたいなことを言っていますが(爆)、そんなようなことを実感出来た一年間でもありました。

それでは、来年もよろしくお願いします。

投稿: 黒猫亭 | 2011年12月31日 (土曜日) 午前 08時46分

そういえば、先日、民主党を離党した人たちが結成する新党の名前も「きずな」になりそうです。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20111231/t10014993911000.html
今年の漢字が発表されたときに、朝日新聞で解説されていましたが、絆の原意は家畜などをつなぐ綱のことなんですよね。
ですから、「情にほだされる」なんかの「ほだす」も無理に漢字で書くと「絆す」で、束縛することを意味しています。
このエントリーの内容とは関係ありませんが、離党した人たちが名乗るのに、ふさわしくない党名だと感じましたので、こじつけでコメントしました。

それでは、よいお年をお迎えください。

投稿: mimon | 2011年12月31日 (土曜日) 午後 04時42分

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