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Act.16  【Side-A】少女たちの眼差し

…結局独り占めしたかったのかよ。

なんだ、がっかりだぞ亜美ちゃん、キミはそんなキタナイ心根の持ち主
だったのか、おじさんは哀しいぞ、こんな薄汚れた世の中でも、キミだ
けは、純真で心の優しい素晴らしい少女だと思っていたのに…ちすん。

…なんてな(木亥火暴!!)

悪辣な冗談はさておき、今回のエピソードでは、なるちゃんがこれまで
亜美ちゃんの何に苛立っていたのかがハッキリしたね。その心情がまた
かわちえ的というか何というか、「欲しいものを欲しいと正直に言わな
い煮え切らなさ」が鬱陶しかったわけだな。

独り勝手に諦めて被害者面を決め込む亜美ちゃんの消極性、弱者を気取
ることで暗に強者を糾弾する怠惰なずるさ、それが親友のうさぎに絡む
問題だからこそ不快に感じていたわけだ。もちろん、亜美ちゃんの在り
方が、客観的に視てそのようなものだったといっているのではない。あ
くまでなるちゃん視点ではそう映っていたということだ。

そして、ある意味なるちゃんの考えるとおり、なるちゃん対亜美ちゃん
の対立では、だれが視てもなるちゃんのほうが悪く見える。弱者である
亜美ちゃんと、強者であるなるちゃんがぶつかり合えば、どうしたって
亜美ちゃんのほうが被害者に見える。

Act.14のコメントで、オレもなるちゃんのことを「一方的にイヤな女に
見える」と評したが、なるちゃんが感情的になって初めから喧嘩腰でも
のを言っているのに、亜美ちゃんのほうは思い詰めたように「自分のこ
とはどう思ってくれてもいいから、そっとしておいて」と言っている。
これではどうしたってなるちゃんのほうが悪く見える。

しかし、本当にそうなんだろうか。オレたちは、あまりにも「可哀想な
優等生」である亜美ちゃんに寄り添ってこの一連を視すぎていたのでは
ないだろうか。一旦なるちゃんの立場に立って視れば、夜分に押し掛け
たのは行き過ぎにもせよ、一目会わせてくれというごく普通の頼みも聞
き届けてもらえず、理由も知らされずに門前払いを喰っているのだ。

努めて客観的にこの一連を視れば、普通の意味で無理筋なのは亜美ちゃ
んのほう
だ。それなのに、だれがどう視てもなるちゃんのほうが悪役に
見える。

教室の言い合いで、なるちゃんが思わずこぼした「こっちが悪いみたい
じゃない」というのは、まさに彼女の本音だろう。自分を殺さず正直に
生きているなるちゃんにとって、包まずポンポン本当の気持ちを言って
いるのに、本心の見えないきれい事で返されたそのうえに、結果的に自
分が加害者のような立場に立たされてしまうこと、これがたまらなく不
愉快だったのだろう。

なるちゃんが亜美ちゃんをそのように視て苛立ってしまうのは、単にな
るちゃんと亜美ちゃんのメンタリティがまったく違うからだ。そして、
亜美・なるの二者関係において、加害者・被害者的構図を現出してしま
うのは、彼女たち以外の第三者の視線であって、亜美ちゃんのせいでも
なるちゃんのせいでもない。

オレたちは、どうしたって亜美ちゃんの視点に立ってしまうから、亜美
ちゃんがなるちゃんのようには生きられない人間なのだと知っている。
亜美ちゃんはきれい事で返したのではなく、正直に気持ちを言うことで
自他が痍附くことに、まだ耐えられないほど弱いだけの話だ。

しかし、他方ではなるちゃんのような生き方だって、それなりに風当た
りの強い生き方ではあるし、彼女の心がどんな打撃にも痍附かない鋼鉄
で鎧われていると考えるのは間違いだ。

亜美ちゃんはなるちゃんのようには生きられない。なるちゃんにできる
ことが亜美ちゃんにはできない。だから、亜美ちゃん自身はもとより、
オレたちもまたそれと同じように、亜美ちゃんがなるちゃんに嫉妬する
のであって、その逆ではないと思っている。

しかし、なるちゃんが亜美ちゃんに突っ掛かるのは、亜美ちゃんの在り
方がなるちゃんの勘に障るからで、勘に障るということは、別の言い方
をすれば引け目を感じるということだ。

うさぎに「亜美ちゃんて、優しいんだよ」と言わせるような部分、自分
たちの輪に溶け込ませようとうさぎに気を遣わせるような部分、本音で
ぶつかっている自分にきれい事で返すような部分、だれもがなるちゃん
を加害者と視て亜美ちゃんを庇うような部分。それをなるちゃんは「ず
るい」と表現している。

一種、なるちゃんが意識しているかどうかはさておき、それは亜美ちゃ
ん当人に対して言っても仕方がない面もある。少女たちを視る他者の目
が、好むと好まざるとに関わらず、この二人の関係性をそのように規定
してしまうのだ。

君は強い子だから、活発な子だから、だれとでもなかよくなれる子なん
だから、友だちのいない「可哀想な優等生」にはもっと気を遣ってあげ
なさい、譲ってあげなさい。

それこそ、「冗談じゃないよ」だ。

そういう不特定多数の無神経で粗雑な目、少女たちの上辺だけを視て、
君はこうするべきだ、あの子はこういう子なんだから、と規定してしま
う無責任な眼差し、それこそが「ずるい」のだ。

うさぎのいちばんの親友でありたいという気持ちでは、なるちゃんも亜
美ちゃんも同じことだ。親友が他の女の子を視ているときの苛立たしさ
については、なるちゃんも亜美ちゃんも同じことなんだ。

なのに、亜美ちゃんが優しく控えめな子だから、自分が戦う強さを持っ
た子だから、亜美ちゃんと真っ向からぶつかって親友を取り合ってはい
けないのか。最初から亜美ちゃんに気を遣って、何をするにも譲ってあ
げなくてはいけないのか。

言いたいこともハッキリ言わないで、優しさと謙譲の美しい仮面の陰に
本心を隠して取り澄ましているような弱い女の子に、他人がその気持ち
を察して思い通りにさせてあげなくてはいけないのか。自分は強い女の
子なのだから、いつでも加害者で、いつでも気持ちを我慢しなければい
けないのか。

たしかに、それは「ずるい」ことなんだな。

なるちゃんの屈折していない部分というのは、こういう本音をあっさり
口に出して、筋違いであろうが何だろうが、「弱い被害者」の女の子そ
の人に喰ってかかってしまうところだ。我慢なんかしたくない、あなた
はずるいと言い放ってしまうところだな。

別の見方をしてみよう。亜美・なるの対立がうさぎを巡るものであるこ
とは当然だが、Act.14のコメントでオレは、将来的には亜美・なる二者
間の直接的関係性の構築が必要で、うさぎを媒介とすることで、すでに
否応なくこの二者関係は生起していると指摘した。

これは、今回のラストのなるちゃんのアティテュードを知ったうえでい
うのでは後知恵の誹りは免れないが、ある意味、なるちゃんの側ではす
でに亜美ちゃんとの直接的な二者関係の間合いで彼女に接しているとこ
ろがある。

そしてこの場合問題となるのは、亜美ちゃんのほうでは、エピソードの
ラストに至るまで、まだなるちゃんと直接向き合ってはいなかったとい
うことだろう。Act.14の対決は、なるちゃんの側から視れば、やっぱり
うさぎが不在でも成立する間合いの、ガチの「喧嘩」のつもりだったと
いうことだ。

つまり、なるちゃんはハナから亜美ちゃん当人と喧嘩も辞さないつもり
で押し掛けたってことだな。

一方、亜美ちゃんのほうはドアの背後にうさぎを隠している。なるちゃ
んと二人きりで相対していながら、うさぎのほうだけを向いている。背
後にうさぎを匿っているからこそ、今この場で闖入者であるなるちゃん
と勇気を振り絞って対決しているのにすぎない。

亜美ちゃんにとって、なるちゃんとの関係性はうさぎとの二者関係に附
随する問題であって、なるちゃんを気遣う気持ちに嘘はなくても、眼前
にいるなるちゃんその人を指向する関心は生起していない

なるちゃんが苛立つのは、亜美ちゃんが自分にまったく関心がなく、う
さぎしか見ていないくせに、それなのにいちばんの親友を自認する自分
を立てるかのように勝手に身を引いていること、そして、内心それを不
満に思っていることを直観的に見抜いているからだろう。

ずるいといえば、これもまたずるい。

それに苛立って亜美ちゃんに突っ掛かることで、うさぎが亜美ちゃんを
庇う立場に回る。亜美ちゃんを気遣って「悪気はないから」とまで言わ
れてしまう。たまらなく鬱陶しい悪循環だ。

だれも悪くないはずなのに、亜美ちゃんは亜美ちゃんで懸命に頑張って
いるはずなのに、出発点における立ち位置からは大きく前進したはずな
のに、なるちゃんの気持ちを慮って吐いた嘘のはずなのに、ここでなる
ちゃんが苛立つのも無理はないんだ。なるちゃんに「ずるい」と罵られ
ても、亜美ちゃんには一言も返せないんだね。

こんなに哀しい行き違いが、この子に関する物語では、なんでこんなに
立て続けに起こるのか。要するに、人と人とはほっといても自然にポジ
ティブな関係性を構築できるわけじゃないからだな。むしろ、人と人は
無自覚に相対した場合、必ず衝突する。良好な関係性を構築するために
は、それを回避しポジティブに昇華するための健全な智慧が必要なのだ
ということだ。

亜美ちゃんは、関係性の不全という意味では、まっさらな出発点で登場
した。彼女に纏わる物語は、一人の少女が辛い経験を乗り越えながら、
実感的な智慧と絆を一から獲得していく成長の物語だ。出発点が0であ
るという意味で、亜美ちゃんに課せられた課題はあまりにも過酷だ。

今回のエピソードで亜美ちゃんに突き附けられた課題は、前回のコメン
トで「うさぎだけが唯一絶対の存在」と表現したような、亜美ちゃんの
関心の在り方そのものについての疑義だ。

うさぎがいちばんであったって何の問題もない。人にはだれだっていち
ばん好きなだれかがいる。問題は、うさぎしか視ていない亜美ちゃんの
関心の狭さ、先鋭に収束した絆のか細さなのだ。

亜美ちゃんの目はうさぎしか視ていない。逆にいえば、他のすべての友
人たちは目に入っていない。そして、今回のエピソードで重要な役回り
を演じるのは、なるちゃんとレイちゃん、つまり、亜美ちゃんがうさぎ
だけを見つめることで、真っ向から向き合う努力を怠っている相手たち
である。

なるちゃんが亜美ちゃんに苛立っているのは、表面上うさぎを巡って対
立している間柄であるはずの自分とすら、真っ向から向き合おうとしな
いからだ。対決の間合い、喧嘩の間合いで接しているはずなのに、それ
でも自分を視ようとせずに、うさぎにしか関心を向けない亜美ちゃんの
姿勢に不快を感じている。それはつまり、だれかを視ないということは
そのだれかを絶対的に拒んでいるということだからだな。

たとえば、レイちゃんのクールな鎧がそれ以上他者を寄せ附けないため
の境界線だとすれば、亜美ちゃんの眼鏡は他者と直接見つめ合うことを
拒むための、これもまた境界線だ。レイちゃんの鎧には迫害と戦う意志
的な強さがあるが、亜美ちゃんの眼鏡には他者をやり過ごす消極的な弱
さと、それとは裏腹な頑固な拒絶の意志表示がある。

弱者は頑固に拒絶するものなんだな。弱者が意志的に完遂できる意志表
示は、拒絶の身振りでしかないからだ。強者が弱者に対して苛立つとす
れば、この愚直なまでの拒絶の身振りだ。

亜美ちゃんが眼鏡を外すようになったのは、放課後だけのことであり、
学園内では依然として装用していたことを、ここで思い出してみよう。

さらには、Act.5 のアバンで「三人でいることの心地よさ」に触れたこ
とを思い出してみよう。Act.14では、新年会の場面でジェンガに興じる
亜美ちゃんとレイちゃんの姿を、そして亜美ちゃんの私室の写真でこの
二人が腕を組んで写っていたことを思い出してほしい。Act.15の後半で
「ここに来るのが癖になってる」と言った言葉を思い出そう。

亜美ちゃんには、セーラー戦士以外の友人はいないのだし、そのうえで
うさぎだけを見つめている。なるちゃんはうさぎを巡って対立すること
で絶対的に亜美ちゃんから拒絶され苛立っているのだ。

亜美ちゃんは、あまりにも自分が辛い思いをしているために、自分がう
さぎだけを見つめることで痍附くだれかがいること
に、まったく思いが
及んでいない。自分を追い詰めているなるちゃんが、自分のせいで辛い
思いをしているとはまったく想像できない。

自分の周囲にいるすべての人々は、自分とだれかの二者関係に附随する
概念的な何かではない。そのすべての人々との間に等価で二者関係は生
起するのだし、自分を好きでいてくれるすべての人々と直接視線を交わ
して向き合うべきなのだ。

今回のエピソードは、亜美ちゃんとなるちゃんがうさぎを取り合う話で
はない。そうすべきであるのにそうしない亜美ちゃんに対してなるちゃ
んが苛立つ話なのだ。そうすることが良いことであるかないかは関係な
く、そうしないことによる不誠実さを糾明する話だ。

さて、なるちゃんの立場に立って一渡り視てきたあとは、われらの愛す
べきヒロインである亜美ちゃんの側に立って、今回のエピソードを視て
みよう。

亜美ちゃんは、また同じことで悩んでいる。

今回のエピソードで亜美ちゃんを追い詰めていたのは、実はなるちゃん
などではない、やっぱりうさぎだったのだ。亜美ちゃんは、またしても
十年一日の如く「うさぎの望むようになれない自分」に悩んでいた。

今回のクライマックスで、亜美・レイの遣り取りを聞かされたとき、オ
レはちょっと戸惑ってしまった。表面的には、二人ともちっともおかし
なことは言っていない。むしろ、一人の親友をめぐる鞘当てという意味
では、ごくごく普通のことを言っているだけだと思う。

わたし、優しくなんかない。大阪さんを助けたいのは、自分のせいかも
しれなくて、「怖い」からだよ。

わたし、大阪さんにすごい嫉妬してた。うさぎちゃんはわたしだけの友
だちじゃないし、大阪さんたちとだっていっしょにいたいのは当然だっ
て、頭ではわかっているんだけど、うさぎちゃんと愉しそうに話してい
るのを視るだけで、大阪さんのこと嫌いになりそうで…

あのとき大阪さんを助けられなかったのは、自分のなかにそういう気持
ちがあったから…もしかしたら「いなくなれば」って思ったかも…わた
し、自分がこんないやな人間だって知らなかった。それなのに、うさぎ
ちゃんは、わたしのこと、優しいって思ってくれて…

うさぎちゃんも騙してるんだよ。

最低。

…どこもおかしくない。

ただ、なんとなくウェイトの掛かり方がおかしい。言っていることは間
違っていないのに、どことなくロジックがおかしい。おかしいと思い始
めると、それに対するレイちゃんの受け答えもおかしく思えてくる。

何よ、「そんなこと」ぐらい。「何でもない」じゃん。裏表のない人間
なんて、いないわよ。だれだって、「いろんな自分」がいるわ。わたし
だって…

いいじゃない、嫉妬くらい。亜美ちゃんは満点をねらいすぎよ。でも、
大阪さんを助けられなかったのは、「そのせい」じゃない。「亜美ちゃ
んなら、絶対にない」。わたしが保証する。

だから、自分を嫌いにだけはなっちゃだめ。いいわね。

うさぎの理想なんか裏切っちゃえばいいのよ。

…おかしくないといえばおかしくないが、やっぱりどことなくおかしい
ような気がする。この一連の会話の落とし所が、どうしてうさぎが騙さ
れたり、裏切られたりする話にならなければならないのか。亜美ちゃん
とレイちゃんは、亜美ちゃんとなるちゃんの問題について語っていたの
ではなかったのか。

「亜美ちゃんなら、絶対にない」というのからして、日本語としておか
しい。「大阪さんを助けられなかったのは、そのせいじゃない」という
言い回しも、よくよく考えると係り受けの関係が微妙におかしい。「亜
美ちゃんのせいじゃない」と普通に言えばいいのに、「そのせいじゃな
い」という、妙に指示代名詞が浮き上がった言い回しになっている。

逆にいえば、なるちゃんを助けられなかったことについて、亜美ちゃん
に責任があるかないかという話をしているのではなくて、「そのせい」
に対応する「何か」のために助けられなかった、という亜美ちゃんの思
い込みが間違っているという話をしているのだ。

そして、「何でもないじゃない」というセリフが、表面的には嫉妬のこ
とを指しているはずなのに、妙に屹立した印象を覚える。小さな嫉妬の
毒など何ほどの意味もない、「何でもない」というのは、大人ならだれ
にでもわかる。しかし、この「何でもない」は、そんな当たり前のこと
を言っているのではないように感じられる。

そもそも嫉妬くらいのことで、「いろんな自分がいる」とまで言う必要
があるのだろうか。こういう言い回しは、たとえば森野文子路線の亜美
ちゃんの陰画に当たるネガティブな部分、こうした余剰の側面を水野亜
美という統一的な人格に絡めて解釈することが適当でない場合に、そこ
を切り捨てて考えるための認識上の方便だ。

いわば、本来的な自分という人格像を意志的に措定する場合に、そこか
らはみ出す要素を便宜的に捨象するための方便が、「いろんな自分」と
いう考え方だろう。では、友だちを独占したいという、ごく普通の欲望
さえも非本来的なものと切り捨ててしまわねばならないほど、水野亜美
という人物の本来的な人格像は狭量なものなのだろうか。

そこで意識されてしまうのは、やはり、この場面のレイちゃんのセリフ
全体にまつわる、指示代名詞の屹立ぶりだ。指示代名詞が屹立している
ということは、普通なら直截名指されるべき何かを名指すことを避けて
いるということ
だ。ここのダイアログは、何かを不用意に言ってしまわ
ないように、きわめて遠回しに書かれているような気がしてくる。

そして、ここに違和感を感じてしまうと、それまで気にならなかったこ
とがどんどん気になり始めてしまう。今回のエピソードがどんな話だっ
たのか、オレには本当にわかっていたのか、だんだん不安になってきて
しまう。

つまり、この亜美・レイの遣り取りは単なる一般論ではなくて、もの凄
く具体的に今回のエピソードの総括をしているのだとしたら、いったい
どうなるだろうか。

そのような視点に立った場合、何というのか、今回のエピソードは爽や
かな印象から一転してもの凄く怖い話に見えてくる。ラストで穏やかな
和解を果たしたはずの亜美ちゃんとなるちゃんの姿が、ほろ苦く見えて
しまうくらい、生々しい話に見えてきてしまうのだ。

まず、アバンから視てみよう。うさぎの脳天気なおのろけが終わったあ
とに、前回のラストを受けて、頻発する失踪事件の陰にいた妖魔にまこ
ちゃんが引きずり込まれそうになる一連が続く。

妖魔を退けてまこちゃんを助け上げ、レイちゃんが「妖魔の気配も消え
たわ」、まこちゃんが「行方不明事件の真相がわかったな」。その後、
妖魔の消えた跡を喰い入るように見据えながら、無言で頷く亜美ちゃん
にカメラが寄る。

単にその場に三人いるから、三人持ち回りでセリフを割っているだけの
話だ。どこもおかしくないといえばおかしくない。亜美ちゃんだけが無
言で妖魔の消えた跡を見つめているのがおかしいような気がするのは、
オレの考えすぎなんだろう。

OP明けてクラウン内。妖魔襲来の一件を知らされ、そのときどこにい
たのかを問い詰められたうさぎは、咄嗟になるちゃんの名前を出して嘘
を吐いてしまう。なるちゃんの名前が出た途端に、ピクリと反応する亜
美ちゃんの目許のクローズアップがインサートされるのは、別に不思議
なことではない。

しかし、なるちゃんたちといたときに妖魔が出て応戦したといううさぎ
の嘘に、亜美ちゃんは妙な表情で「大阪さんたちは妖魔に襲われなかっ
たの?」と口を挟む。大丈夫だったといううさぎの嘘に、妙な間があっ
てから「そう…よかった」と亜美ちゃんが答える。「なるちゃんたちの
ことまで心配してくれてるんだね、なんか嬉しいな」とうさぎ。微笑す
る亜美ちゃん。

ここの芝居場の亜美ちゃんの表情は、最初から最後まで変だ。腹が読め
ない。うさぎの言葉を受けた微笑みが強張っている。

続いて、通学路で脳天気な独り言を呟くうさぎの背後から、亜美ちゃん
の姿が現れる。うさぎが一人でいることに気附いて、一瞬パッと表情が
明るくなる。駆け寄ろうとした途端に、横合いからなるちゃんが飛び出
してきて、うさぎの腕に絡み附く。うさぎとなるちゃんは「愉しそうに
話している」。

うさぎが亜美ちゃんに気附いて亜美ちゃんに駆け寄り、「なるちゃん、
亜美ちゃんすっごい優しいんだよ、なるちゃんたちのこと心配してくれ
て」となるちゃんに言う。もちろん、妖魔が出たといううさぎの嘘を知
らない以上、なるちゃんには何のことだかわからない。

このセリフの間中、亜美ちゃんは居堪れないように俯いていて、上目遣
いになるちゃんを視る。「なんで心配されなきゃいけないの?」という
当然至極な疑問をなるちゃんが吐き捨てると、亜美ちゃんは後ろめたそ
うに唇を噛んで目を伏せる。

クラウンで吐いた嘘のため、うさぎはその場をうやむやにしてなるちゃ
んに駆け寄り、そのまま亜美ちゃんを置き去りにしてしまう。考えなし
に「なるちゃんたちのこと心配してくれて」なんて言っちゃった手前、
なるちゃんと亜美ちゃんをいっしょにしてしまったら、嘘がバレちゃう
からだ。

…余談に渉るが、今回のエピソードにおけるうさぎのダメダメさ加減は
空前絶後だな。いってしまえば、今回のエピソードがこのようなものに
なったのは、九分九厘自分の恋のことでお団子頭がいっぱいになってい
るうさぎのぼんやりのせいだ。

例の彦右衛門くん登場の英会話実習のくだりでは、なるちゃんの「私が
悪いみたいじゃない」というセリフを受けて、うさぎは「亜美ちゃんは
そんなんじゃない、ホントに優しすぎるんだよ」と庇うが、このときな
ぜか亜美ちゃんは驚いたようなリアクションをとる。これも、少し芝居
の係り受けが合わないような違和感を感じる。

亜美ちゃんを「優しすぎる子」と視るうさぎの視点からすれば、この見
方はいつものステロタイプであって、さほど意外なことでもない。だと
すれば、亜美ちゃんは何にそんなに驚いたのか。

呆けたように街を歩く亜美ちゃんの前になるちゃんが現れ、なるちゃん
が妖魔に襲われる場面では、少なくともなるちゃんが妖魔に連れ去られ
るまでは全然不自然な芝居はない。なるちゃんの悲鳴を聞き附けて駆け
寄った亜美ちゃんは、必死になるちゃんを助けようと手を伸ばす。もう
少しというところで及ばず、なるちゃんは妖魔に連れ去られる。

おかしいのは、このあとだ。

亜美ちゃんは、なぜかやっぱり妖魔の消えた跡をずっと見つめている。
妖魔のつくり出した蟻地獄は瞬時に消えてしまったのだから、何もない
道の真ん中を穴が空くほど見つめていたことになる。うさぎとレイちゃ
んが駆け附けても、やっぱりそこを見つめている。

うさぎがなるちゃんの消えた場所に跪き、「なるちゃん…」と呟くと、
亜美ちゃんの視線はそのうさぎの背中に移り、思い詰めたような表情で
見つめ続ける。その横顔に心配そうなレイちゃんの視線が注がれる。

ルナの急報でエナジーファームに駆け附けた三戦士は、力を合わせて結
界を破ろうとするが、一度や二度の攻撃ではびくともせず、何度も跳ね
飛ばされる。

なぜか亜美ちゃんは、ムキになって単独で攻撃を繰り返し、うさぎとレ
イちゃんに諫められる。「大阪さん、助けなきゃ!」と身も世もなく叫
ぶ鬼気迫る亜美ちゃんの後ろ姿に向かって、うさぎは「亜美ちゃんて、
すごいね」と彼女の優しさを褒め称える。「えっ」驚く亜美ちゃん。

「あんな喧嘩したあとに、こんな一生懸命でさ」。しかし、カメラのほ
うを向いている亜美ちゃんの表情は、遂には居堪れないくらい辛そうに
歪んでしまう。「ちょっと待ってて」とうさぎがハケたあと、とうとう
気持ちを胸に包みきれなくなって、堰を切ったように亜美ちゃんの独白
が始まり、最前引いたレイちゃんとの遣り取りになる。

こうして長々とエピソードの要約をしたのは、亜美ちゃんとレイちゃん
の会話が、これらの物語の流れと具体的に対応していると考えられるか
らだ。

たとえば、アバンのあのとき、亜美ちゃんは妖魔の消えた跡を視るとも
なく見ながら、「こんなふうにして、大阪さんもいなくなっちゃえばい
いのに…」と、ふと思ったとしよう。

そんなのは本当の気持ちでも何でもない。だれしも心が弱っているとき
には、自分を攻撃するもの一切がどこかに行ってしまえばいいと、幼児
的に考えることがある。それでも、死んでしまえと本気で願うわけでは
ない。ただ、死んでくれれば都合がいい…と、ふと心に浮かんだりする
だけのことで、それは「死ね」と願うこととはまったく別のことだ。

レイちゃんの言うとおり、それは、「何でもない」ことだ。

クラウンでうさぎが妖魔と戦ったと嘘を吐いたとき、亜美ちゃんがなる
ちゃんの安否を訊ねたことには、多分深い意味などない。個人的には、
なるちゃんとの角逐で頭がいっぱいだったから、何心なく聞いてしまっ
たんだと思いたい。ところがうさぎはそれに過剰に反応して、亜美ちゃ
んが優しさからなるちゃんのことを心配しているのだと解釈した。

しかし、亜美ちゃんは、少なくともなるちゃんのことが心配だったから
安否を訊ねたのではない。ただ、単になるちゃんがどうなったのか気に
なっただけのことだ…と思いたい。

うさぎはそれを亜美ちゃんの優しさだと受け取ったが、それは亜美ちゃ
んにとっては、優しさから発した思い遣りなどではないことだけは確実
で、そのためにかえって、自分が「大阪さんが、ひどいめに遭えばいい
のに」と悪意的に考えてそんなことを聞いたのではないか、と疑ってし
まったのだとしたら。

そして、そんなことを考えている折柄、通学路でうさぎを見附け、駆け
寄ろうとしたその鼻先をなるちゃんがかっさらい、「愉しそうに話して
いる」のを見せ附けられて「大阪さんのことを嫌いになりそう」になっ
てしまった、そのタイミングでうさぎが「亜美ちゃんてすっごく優しい
んだよ」と言い放つ。

後ろめたくないはずがない。この亜美ちゃんの心情に「なんで心配され
なきゃならないの」というなるちゃんの憎まれ口がどう響いたか。これ
は一種のダブルトークだ。なるちゃんがどういうつもりでそう言ったの
かは関係ない、亜美ちゃんは実際になるちゃんのことなんか、まったく
心配していなかった
のだ。

うさぎを連れ去ってしまったなるちゃんの後ろ姿を見つめながら、亜美
ちゃんはどう思っていたのか。

英会話実習の場面で、うさぎは最初に何と言ったのか。なるちゃんに誘
われたうさぎは亜美ちゃんに「三人でやろう」と持ち掛けた。亜美ちゃ
んは「二人で組むんだから、私は余った人と組む」「大阪さんが先だか
ら」と言い訳してこの申し出を断っている。

これもひょっとしたら、なるちゃんに気を遣ったとか譲ったとか、そう
いうことではなくて、単になるちゃんといっしょに組むのがいやだった
から、という取り方もできる。

この時点では、なるちゃん個人が好きだとか嫌いだとかいう感情はあま
り関係ない。「大阪さんがいなくなればいい」と思ったのは、単に亜美
ちゃんにとってなるちゃんが邪魔だったからだし、組みたくないのはそ
ういう自分の気持ちと向き合うのがいやだからだ。

それなのに、うさぎはまたしてもそれを「亜美ちゃんはそんなんじゃな
い、ホントに優しすぎるんだよ」と勝手に善意に解釈してしまう。この
言葉は、さらに亜美ちゃんを追い詰める。うさぎが自分のことを優しい
人間だと思ってくれるのは、たまらなく嬉しい。しかし、それはうさぎ
の誤解だ。亜美ちゃんはうさぎが言うようなことなんか、全然思ってい
なかった。

しかし亜美ちゃんは、うさぎに褒められたことが嬉しくて、その誤解を
訂正しようとはしない。その束の間の嬉しさに甘んじたことが、さらに
亜美ちゃんの呵責を重くする。

街を彷徨ってなるちゃんと遭遇するまでの亜美ちゃんの心情が、ざっと
このようなものだったとしたら、なるちゃんと二人きりで相対すること
が怖かったとしても仕方がない。

そのタイミングでなるちゃんは妖魔に襲われ、亜美ちゃんは必死に助け
ようとする。ここで助けられれば何の問題もなかったんだが、不幸にし
て、あと一歩のところで亜美ちゃんはなるちゃんを助けられなかった。

妖魔の消えた跡を見つめる亜美ちゃんの姿は、アバンの幕切れの意地悪
い繰り返しだ。なるちゃんが消えたあと、亜美ちゃんはなるちゃんが襲
われたときに、自分がどう思ったのかを思い出そうとしている。

しかし、こんな咄嗟の場面で何を考えていたかなど、思い出せるもので
はない。だから、思い出そうとしてはいけないのだ。その記憶は、今こ
の場でつくられた記憶
であって、思い出されたものではないからだ。

あの場面でなるちゃんを助けられたのは自分だけだったのに、なるちゃ
んは助からなかった。事実として、なるちゃんは妖魔に連れ去られてし
まった。あとは、その事実をどう解釈するかしか残されていない。

そして、「助からなかったという事実」と「助けなかったという事実」
には、結果としての見え方に何の区別もない

さらには、この場面がアバンの繰り返しである以上、亜美ちゃんはなる
ちゃんが襲われたそのときに、あのときと同じように「大阪さんがいな
くなっちゃえばいいのに」と思ったのだと、思い込んでしまったのだと
したら。

亜美ちゃんの目の前で、あのとき「こんなふうに、いなくなっちゃえば
いいのに」と思ったまさにそのとおりの形で、なるちゃんはいなくなっ
てしまった。

これは、怖い

亜美ちゃんが必死で結界を毀そうとしたのは、その言葉どおり、本当に
怖かったからなのだ。自分の手で妖魔からなるちゃんを奪い返さない限
り、なるちゃんを妖魔に襲わせたのは自分だということになってしまう
のだから。亜美ちゃんは他人を助けようと「一生懸命」だったのではな
く、自分自身が怖くて「半狂乱」だったのだ。

そこへ、駄目を押すようにうさぎが「亜美ちゃんてすごいね」と善意の
誤解を重ねてしまう。最早亜美ちゃんには耐えられない。自分のせいで
なるちゃんが襲われたのに、うさぎはそれとは知らずに、皮肉にも自分
を褒め称えている。なるちゃんが連れ去られてしまったあとでは、自分
にはその誤解を正す勇気さえもない。

亜美ちゃんの独白は、なるちゃんに対する反撥から、なるちゃんの危機
に際して、自分が全力を尽くさなかったのではないか、という上辺の言
葉どおりのことを言っているのではない。

なるちゃんが妖魔に襲われたのは、自分がそう望んだからだと言ってい
るのだ。なるちゃんが「いなくなってしまった」のは、「いなくなれ」
と願う自分の醜い心に責任があると言っているのだ。

レイちゃんがハイヒールの踵を鳴らして一喝するのは当たり前だ。

冷静に考えてみろ。いなくなればいいと考えたら、だれかがいなくなっ
てくれるのか。よしいなくなったとしても、それはそれだけのことにす
ぎなくて、いなくなれと思う気持ちとはいっさい関係ない。

それは、一から十まで亜美ちゃんの妄想だ。自分の大好きな人を独り占
めしているばかりか、自分の醜い心の動きを見抜いて糾弾する相手に対
して、ちょっとでも「消えてなくなれ」と思わない人間などいない。し
かし、それはただそれだけのことにすぎない。

レイちゃんの言うとおり、それは、「何でもない」ことだ。

ならば本当に亜美ちゃんは、ただの一度もなるちゃんに対して優しい気
持ちを抱いたことがないのか。そんなはずはないんだな。ただ亜美ちゃ
んは、自分の醜い心の動きに初めて接して、そこしか見えなくなってい
ただけの話なのだ。

あのときクラウンでなるちゃんの安否を訊ねたのは、本当になるちゃん
のことが心配だったからなんだ。Act.14で、育子ママやなるちゃんによ
けいな心配をかけまいと嘘を吐いたのも、亜美ちゃんの優しさがそうさ
せたんだ。そう考えさえすれば、それは本当のことになる。

優しい亜美ちゃんと、優しくない亜美ちゃんは、等価で実在する。だれ
だって、「いろんな自分がいる」。問題は亜美ちゃん自身がどちらの自
分を本当の自分ととらえるか、だ。

レイちゃんが言っているのは、そういうことだと思う。

「私が保証する」というのは、優しい亜美ちゃんの実在を、第三者のレ
イちゃんが全人格をかけて支持するという意味だ。刺々しく突っ掛かっ
てくるなるちゃんが相手でも、だれかの危機に際しては無我夢中で手を
伸ばす、そういう亜美ちゃんの実在を、レイちゃんが無担保で保証する
ということだ。少なくとも、レイちゃんだけはそういう亜美ちゃんが本
当の亜美ちゃんだと、積極的に信じるということだ。

だから、自分を嫌いにだけはなっちゃだめ。いいわね。

現に、今回のエピソードを通じて唯一不自然でなかった亜美ちゃんの芝
居は、身を挺してなるちゃんを救おうと手を伸ばしたあの場面だけだ。
あの場面の亜美ちゃんは、ただひたすらになるちゃんを救おうと無心に
身体が動いたのだと、オレは信じたい。

亜美ちゃん自身に信じられないなら、このオレが信じてやるよ。

つまり、亜美ちゃん視点でこのエピソードを解釈すると、一人の少女を
襲った通り物の物語だということだ。追い詰められた亜美ちゃんに、ふ
と魔が差したというだけの話で、亜美ちゃんの独白は一から十までただ
の魔境だ。京極風に謂うならば、それは一匹の妖怪だ。

…つまり今回の物語は、憑き物落としの拝み屋の、憑き物落としが成功
したという話だったんだな(木亥火暴!!)。

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