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Act.28-1 前奏曲と愛の死

伝説においては、白い手のイゾルデは望まずして最愛の人を死に至らし
め、金の髪のイゾルデの癒しの妙薬は決して死に先駆けることはない。

白い手のイゾルデの妬みは、その愛する者であるトリスタンを絶望の死
へと追いやり、トリスタンを救う力を持ちながらもそれがかなわなかっ
た金の髪のイゾルデをも、その枕辺に共に死なしめる。妬みによって偽
る女は、死によって永遠に結ばれた真実の愛に拒まれ、惨めな現世に独
り取り残される。

これは愛と死の神話的悲劇である。

そして、われわれが視ていくべきこの物語の場合、金の髪のイゾルデが
持つ万能の妙薬が癒すべきは、愛する者である金の髪のイゾルデその人
を殺害した罪障に戦く白い手のイゾルデの心である。

美しい伝説に込み入った手を加え、トリスタンを除いて二人のイゾルデ
を直結した奇怪な架空の物語のなかで、愛と死と癒しを巡る悲劇は撤回
可能なのか。今回のレビューでは、そこから視ていきたい。

なお、ワグナーの楽劇においてはイゾルデは一人しか登場しない。彼女
はトリスタンを癒すためでなく、その愛によって共に死ぬために、劇中
を通してひたすらに死へと突き進むかのように振る舞い続けた愛人の死
の床へと駆け附ける。

また、金の髪のイゾルデは、麗しのイゾルデとも呼ばれている。

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